和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

地位と名誉の値打ち (1)

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幹部社員飽和時代

どこの世界にも、地位や名誉に異常に執着する人がいますが、会社と言う組織の中にも肩書に拘る社員が少なからず存在します。

 

私が入社してから20年近くの間、会社は年功序列を維持しており、同期入社はほぼ同じ時期に昇給昇格していました。管理職への昇格時期も1年程度の差しかありません。昇格できない社員は、過去に仕事で大きな罰点をつけられていた場合に限られていました。

 

本来、管理職は会社のストラクチャーに合わせて適格な人物を適正な人数だけ配置すべきところ、当時は、管理職になれる“有資格者”が増えすぎたため、既存の部署を無理やり分割するなどしてポスト増設を図ることに加えて、意思決定のライン外に、“調査役”や“特命リーダー”など、権限無し・部下無し幹部社員を配置する頭でっかちな組織になっていました。

 

そんな時代にあっては、ある程度の年齢に達すれば幹部社員に昇格し、権限のある役職に就かずとも、そこそこの給料は保証される仕組みになっていました。権限のある役職でなければ、“仕事で忙殺される”ことも無く、平和な窓際族として会社人生の終盤を迎えることが出来ました。

 

私は、若い頃に、「今こうして忙しくしていても、いずれ定年が近くなれば、窓際で優雅に新聞を広げてコーヒーを啜る毎日が過ごせる」と、悪いことを考えていました。しかし、現実は甘くありませんでした。今や管理職のほとんどがプレイイングマネージャーであることを要求される時代になりました。役職に就かない幹部社員や、役職定年を迎えた幹部社員は、実務者として仕事をすることが求められます。古き良き時代が戻ってくることはありません。

 

さて、かつての幹部社員飽和時代、部署が増えても実務者の員数が増えるわけではありませんでした。私は当時、課長職になったばかりでしたが、4人いた部下のうち2人を別の部署に異動させられました。そうなると、管理職も実務をこなさないと仕事が回らなくなります。この頃が“プレイイングマネージャー”の出始めだったのだと思います。責任も重くなり仕事も増えるとなると、「給料を増やしてもらっても、管理職にはなりたくない」と若手社員が言うのも無理はありません。かつてほど、会社の中で“偉くなる”ことに魅力は無いのです。

 

幹部社員の減らし方

幹部社員と一般社員の人員構成が歪なまま数年過ぎました。バブル期入社の幹部社員が増えすぎて、これ以上部署を新設することも出来ず、ポスト不足となりました。人件費の膨張を抑制する必要性も相まって、会社はようやく人事制度の見直しを行ないました。

 

それは、「管理職登用基準の適正化」と「自由選択定年制度」と言う形で具体化されました。前者について、人事部は、“管理職への登用は、本人の適性を十分に考慮して行なうこととする”と言っていましたが、ふたを開けてみれば、幹部社員を削減する方便に過ぎませんでした。上司の受けが悪ければ、昇格候補者にすらなれないと言う新制度には、一般社員のみならず幹部社員からの反発も多かったのですが、これまで一切の見直しは行なわれていません。何しろ、幹部社員の層は上が詰まっているわけです。定年などで上の層が減った分だけ補充する新しい仕組みを、人事部も簡単には譲れなかったのでしょう。

 

「自由選択定年制度」は当初、45歳以上の社員を対象としていました。会社としては、幹部社員昇格から漏れた社員の早期退職を見込んでいたはずですが、その意向に反して、現役の若い幹部社員が次々と同制度を活用して退職し、同業他社に転職して行きました。後に同制度の対象年齢は50歳以上に引き上げられました。年齢的に、転職目的で同制度を活用するのは難しくなりましたが、アーリーリタイアメントを理由に会社を後にする社員は毎年一定数存在します。

 

こうして、幹部社員の員数は、会社の目指す適正数に近づいてきているのだと思います。これに伴って、部署の統廃合も進み、管理職のポストも減少傾向にあります。このことは、これまでの管理職の員数が如何に多かったかを如実に物語っています。

 

働き手がいない!

会社が部署の統廃合を急ぐのは、40代後半から30代後半の世代が圧倒的に不足しているためです。バブル崩壊後に新卒採用を絞っていた世代で、ここ10年近く中途採用などで人手不足の補充を試みていますが、中途入社組の早期離職率は思いの他高く、なかなか戦力として定着してくれません。今は何とか“プレイイングマネージャー”がその穴を埋めていますが、このような状態をいつまでも続けられるわけがありません。

 

人事部は、世の中の潮流から、一般社員の時間外勤務には敏感に反応します。各部の部長は部下の時間管理に注意を払い、一般社員には極力残業をさせないように業務の配分を考えます。そして、そのしわ寄せを吸収するのは管理職です。

 

コロナ禍前、休日に出勤すると、そこには幹部社員の顔しかありませんでした。私も含め今の幹部社員は、残業慣れしていた世代です。深夜残業や休日出勤に対する“耐性”もあります。これは決して自慢できる話ではないのですが事実です。

 

しかし、自分たちがやってきたことだからと、今の若い世代に私たちと同じことを押し付けるわけに行きません。連日の深夜残業や休日出勤。たとえ繁忙期だけの期間限定の話だとしても、今のご時世、そのような働き方を本人やその家族が受け入れられるか甚だ疑問です。(続く)