和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

長い長い予定表 (1)

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遠くを見る目

会社の仕事、とりわけ新しいプロジェクトの投資評価を行う場合、計画が想定どおりに進んだケースの他、カギとなる要素が想定し得る最悪の状況になった場合 – リスクケース – も考慮します。リスクケースは、“悪い状況が重なった場合に生じる損失”に対する覚悟と、その損失を最小限に食い止めるための救済・緩和策の検討に用いられます。

 

会社の事業の場合、プロジェクトが成功すれば収益貢献の大きな軸になる反面、失敗した場合のダメージも大きくなるため、投資を判断する場合には慎重な検討が繰り返されます。

 

翻って、私たちはどのくらい真剣に自分や家族のライフプランを考えているのでしょうか。物事がうまく進んでいる時には、せっかくの時間を堪能したいと望み、悪いことは考えたくないものです。多くの人は、心穏やかな状態にあえて水を差すようなことはしません。また、若くて気力体力が充実しているときに、何十年も先の年老いた自分のことを考えることも、ほとんどの人は好まないと思います。

 

しかし、ふと立ち止まって振り返った時に実感する時間の流れは、歳と共にその早さを増すことになります。“まだまだ先の話”と考えていたライフイベントが、気がつくと目と鼻の先まで迫っていると言うことが往々にしてあります。

 

プライベートで予定を組む人も、数年先、数十年先の予定を組むことは稀でしょうが、まだ時間がたっぷりある時に、長い予定表を頭に思い描いてみることは損にはならないと思います。若い時に遠くを見る目を備えていれば、時間のメリットを活かすことも出来ます。

 

何が重大なライフイベントになるかは人それぞれですが、何をするにせよ、お金と時間の使い方がカギを握ることになります。自分の長い予定表 – 人生設計 – は、お金と時間の使い方を考えることだとも言えます。

 

私は、若い時にああしておけば良かった、こうしておけば良かったと、歳をとってから悔やむことが多々ありました。これから書くことは、自分が実践してきたことに加えて、もし私が、もう一度20代に戻れたとしたら、こう生きたかったと言う話です。

 

生活レベルの話

生活レベルの話は、過去の記事で何度か触れたことがあります。現役時代から老後生活まで、健全な収支を保ち続けることが出来れば、生涯お金にまつわる不安に苛まれることは無いのでしょうが、これは言うほど簡単なことではありません。事業や投資の失敗、勤め先のリストラや倒産。長く生きていればそれだけ、想定外の出来事に遭遇する可能性も増えます。“健全な収支”を心がけていても、収入は自分の思いどおりにはなりません。

 

他方、出費はコントロール可能です。より正確には、出費の多少は生活レベル次第と言えます。自分の生活レベルなのですから、何とでもなりそうな気がします。

 

しかし、生活レベルは、ともすれば収入に大きく影響を受けるきらいがあるので、思いつきでダウンサイズを試みても成功するとは限りません。また、慣れ親しんだ生活レベルを下げることは、習慣を変えることへの抵抗と、見栄や世間体と言う障害が大きな邪魔になり、人によっては大きな苦痛を伴うこともあります。

 

私たち夫婦が結婚したのは、バブル崩壊後の漠然とした不安に包まれていた時期でした。終身雇用に依存することは最早できないと考え、いざと言う時のための蓄えが必要であることを“何となく”感じていました。将来の家の購入や子どもを授かった場合にかかるであろう教育費など、大きな出費を伴うイベントについては、それぞれ目標額を設定して“つもり貯金”を行なうことによって、自己資金だけで生活を営むことを目指しました。

 

このように貯蓄優先の家計を組んだ結果、毎月の生活費は、貯金に回すお金を差し引いた残りで何とかやりくりすることにし、また、夏冬のボーナスは原則手をつけないことにしました。以降、昇給があった年も、その分は貯蓄に回すお金が増えるだけで、日々の生活費は結婚当初とほとんど変わらず、長女が生まれた時に、結婚後初めて生活費の見直しを行ないました。

 

しかし、これらはかなり大まかなもので、綿密に将来キャッシュフローを作って計画を立てたものではありませんでした。そのため、“いざと言う時のための貯蓄”は順調に積み上がって行きましたが、今振り返ると、必要以上に家計を締めつけていたのではないかとも思います。

 

貯蓄に励むことは悪いことではありませんが、それによって、日々の生活から潤いが無くなってしまっては、本来、将来の不安解消のための手段であるはずの貯蓄が目的化し、生きること自体が苦行になってしまうリスクもあります。

 

もし、結婚当初からやり直しができるのであれば、ライフイベントを想定したキャッシュフローを作成した上で、もう少し緻密に家計管理が出来たのではないかと思うのです。

 

一方で、結婚当初からほぼ同じ生活レベルを維持できたのは、夫婦でお金に対する共通の価値観を持つことができたからです。これは、たまたま同じ価値観を持つ者同士が結婚したと言うことでは無く、結婚生活を送る中で、お金に対する共通の考え方を育んできたと言うことです。

 

共働きで、生活費は出し合うものの、それぞれのお金の使い方を知らないと言う夫婦が多いようですが、これでは共同体としての収支のみならず、将来必要な資金の管理が出来ないのではないかと、他人事ながら心配になります。

 

私たちの場合、結婚当初、本当にお金がありませんでした。このことが幸いして、毎日寝る前はお金の話しかしていなかったような気がします。どうやって暮らして行くのか、将来のための準備はどうすればいいのか、そんな頃に二人で合意した生活レベルなので、その後、これまでお互いに文句を言うようなことにはならなかったのだと思います。(続く)