和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

捨てる勇気 (1)

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堪忍袋と虫の居所

普段温厚な人が、我慢していた怒りを爆発させることを「堪忍袋の緒が切れる」と言います。普段温厚な人が目くじらを立てて怒ると言うことは、“そうさせた側”が余程酷いことをしたのだろうと想像できます。

 

逆に、すぐ怒る人がいます。普通に話していたつもりでも、突然怒鳴られたりすると、こちらとしては何で怒られたのかさっぱり見当もつかず、「虫の居所が悪かったのだろう」で済ませたりします。

 

気心の知れた相手ならいざ知らず、仕事上の必要性に駆られてやり取りしている相手に対して、“必要以上”に気を遣っていては身が持ちません。相手が、大きくて緒の太い堪忍袋を持っていようが、虫がいようがいまいが、こちらとしては平常心で臨むのが一番だと思うのです。

 

職場でも学校でも、そして家庭でも、周囲に対する気配りや思いやりは欠かすべきでは無いと思います。一方で、相手の顔色を窺いながら、「これを言ったら気分を悪くするのではないか」とか、「仕返しをされるのではないか」などと考えながら生きていては、今度は自分を殺して生きて行くことになってしまいます。

 

独善的な考えを持つことは良いことではありませんが、自分が正しいと判断したことは、それが相手の気分を害する結果になったとしても、「言うべきことは言う」で通すべきだと思います。自分を殺さないで生きるには、相手に舐められないための姿勢を示し、自分にも堪忍袋があると言うことを相手に知らしめることは大事なことです。

 

期待のホープの挫折

堪忍袋とは異なりますが、我慢すると言う点では、ストレス耐性も重要です。仕事や家庭、人間関係。私たちは様々なストレスに晒されながら生きていますが、すぐに取り乱してしまったり、仕事を放棄してしまっては、信頼して何かを任せることは出来ません。私の勤め先では、査定や人員配置のために、社員のストレス耐性にも注目するようになってきています。もっとも、人事考課の評価項目に「ストレス耐性」などと言うものはありません。評価項目の“枠外”でその社員がどれだけ“打たれ強いのか”を具体的な事例などを挙げて記しておくのです。ストレス耐性は、「忍耐袋」と言った方がイメージが湧きやすいと思います。

 

さて、体調が優れない時、それが心因的なストレスから来るものの場合、人によって症状の出方は様々です。私の場合は、若い時には胃がキリキリ痛んだり、円形脱毛症になったりしました。そのような体調不良が鳴りを潜めたのは、「仕事はいつでも辞められる」、「自分の役職は、“余人をもって代えられる”もの」という考えに変わったからだと思います。もちろん、そのための準備も必要ですが、仕事中心の生き方を変えれば、自分の見ている風景も変わるのです。堪忍袋もそうですが、忍耐袋にしても、自分がどのように受け止めるかで許容力が変わります。

 

仕事が原因で自死してしまった人のニュースを聞くと、やるせない気持ちで胸がいっぱいになってしまいますが、同時に、自分や自分の部下がそうならないようにするのが自分の務めだと考えています。“たかが”仕事で自分の命を犠牲にしてしまうのはもったいないです。

 

今目の前の仕事に全力で当たっている人には申し上げにくいのですが、仕事は命がけで取り組むものではありません。どんなに身を粉にして働いて成果を得ようとも、会社は、そのために壊れてしまった社員の一生を面倒見てくれるほど優しくはありません。会社を良くしていこうと言う考え方は大切にしなければなりませんが、自分を犠牲にする必要はありません。もし、自分の貢献に対して会社からの見返りを期待しているのなら、そのような考えは捨て去るべきです。

 

私の会社の先輩の話です。頭の回転も早く数字に強いその先輩には、新規事業に参入する際の仕事の進め方を一から教えてもらいました。課は異なりましたが、嫌な顔一つせず、未熟な若手社員だった私の勉強に付き合ってくれました。

 

その先輩が、新規のプロジェクトを任されました。半年以上に亘って、まさに駆けずり回るように仕事をしていました。大きな仕事を担当したことと、その先の成功の絵姿が思い浮かべることができれば、忙しさや疲労感を感じずに突き進むことが出来ます。上司からの期待が大きかったことも励みになったのでしょう。傍で見ている私の目からもそれが良く分かりました。

 

ところが、その後、社長交代に伴う経営方針の大変更により、先輩が担当していたプロジェクトは中止となってしまいました。それまで費やしてきた時間と労力が水泡に帰した瞬間でした。

 

それが直接の原因なのかは分かりませんが、先輩は段々と精彩を欠き、しばらくして、病気休職となりました。

 

現在では、私の勤め先でも、毎月の残業時間の統計や健康管理室主導の「健康アンケート」により、社員ひとりひとりの様子に目を配るようになりました。そして、本人が体調不良を申し出る前でも、産業医との面談などで休養が必要と判断されれば、負荷の少ない部署への異動や、しばらくの休職を経て時短勤務でのリハビリ出社を行なうなど、社員のメンタルケアに力を入れています。しかし、当時は心の病で休職になるのは珍しく、先輩は余程状態が悪かったのだと思います。(続く)