和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

後輩社員の退職

私の一つ下の後輩社員が今年いっぱいで退職することになりました。彼は半年ほど前に“二度目の”病気休職から復帰したばかりでした。

私が海外駐在していた時、ほんの一年足らずの間でしたが、彼は本社側の私のカウンターパートでした。実直で噓を吐かず、相手に変な期待を持たせない姿勢。掛け値なしの彼の言葉、一歩先を読んだ対応 ― 仕事量が多く忙殺される中で、信頼できる相棒の存在はとても心強いものでした。

彼が最初に倒れたのは、そんな忙しい最中でした。仕事の重圧、部下の指導、上司との軋轢。諸々の負担に圧し潰されてしまったのだと思いました。彼を良く知らない同僚の中には、彼を「真面目過ぎる」とか「融通が利かない」と評する者もいましたが、彼のように会社の行く末や若手の将来のことを気にかけていた人間は貴重な存在でした。

復職後、彼はこれまでの仕事とは畑違いの部署に異動となり、私とは疎遠になってしまいました。部署異動だけが理由ではありませんでした。復職後の彼はどこか近寄りにくい雰囲気を漂わせていました。

“人が変わる”のにはそれなりの理由があります。私が気づかなかっただけで、私は彼が倒れる原因の一端だったのかもしれません。もっとも、彼の退職は決まったことなのですから、今更私の疑問が氷解したところで何の解決にもなりません。

頭のどこかで気にはなっていたことは、結局、尋ねられずに彼を見送ることとなりました。