不寛容な世の中で (1)

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言動への厳しい目

人間、生きていれば、“うっかり”失言してしまったり、思わず感情的になって暴言を吐いてしまったりというのはよくあることです。また、行き過ぎた言動で知らず知らずのうちに誰かを傷つけてしまったということもままあります。

 

かつて、会社の飲み会での暴言や失言というのは毎度のことでした。言った方も言われた方も、酒の上での話として水に流すのが慣わしでした。逆に、前の晩のことをいつまでも根に持つような人間は、「冗談も通じない」とか、「付き合いづらい」などと悪く言われる始末。

 

それが変わり始めたのは、ハラスメントと言う言葉が社会に浸透し始めた頃からです。相手が不快感を覚える言動は慎むというのが新しい慣わしとなりました。酒の席だからと言って、暴言や失言は許されません。もっとも、会社員の失言なら、余程悪質でなければ、上司からお小言を受けて終わりでしょう。

 

これが、発言に影響力のある立場だとそうはいきません。政治家が失言を理由に辞任するのは今始まったことではありません。また、最近ではSNSの普及とも相まって、著名人の失言もあっという間に広がり、厳しい非難を浴びるケースも増えてきています。世間に顔の知れている人は、自分の言葉に自身の足を掬われないよう一層の注意が必要です。

 

そうは言っても、政治家や著名人も人の子。“ついうっかり”は避けられないことです。お笑い芸人などは、場を盛り上げようとして、行き過ぎた言動を取ってしまうこともあるでしょう。いずれにしても、もし、それが誰かを傷つけたのだとしたら、素直に謝るのが筋であることは間違いありません。

 

その立場に相応しくない言動や人を傷つけるような発言をしてしまったら、謝る。この点については今も昔も変わりません。しかし、私が最近気持ち悪さを感じているのは、昔に比べて他人の失言への過剰反応と、謝罪を受け止めることができない狭量な心を持った人が増えてきていることです。

 

謝罪を受け入れない

意図せず誰かを傷つけてしまったということは、多くの人が経験しているのではないでしょうか。深く考えずに吐いた一言が、性差別を含んでいたり、特定の集団に対する蔑視であったり。誰かに指摘されるまで発言者は事の重大さに気づかなかったということもあります。

 

軽率な発言をした者は戒められるべきで、その発言で不快な思いをした人に対しての謝罪が必要です。時には、失言を撤回することにより、直接的な謝罪を避けようとする発言者に対して、「撤回すれば済む話ではない」と声を立てる人々もいます。確かに、心にも無いことが口から飛び出すことは稀で、失言の多くはつい本心が漏れたものだと思います。したがって、発言者は失言の根底にある考え方そのものを反省しなければなりません。

 

しかし、反省を踏まえた謝罪がなされれば、失言に抗議した側の目的は達成されたことになります。もし、真摯な謝罪があったにも拘わらず、相手がそれを受け入れなければ、事は平行線のままで謝罪は成立しません。

 

最近、非を認めた者に対してさらに追い打ちをかける、あるいは済んだはずのことを蒸し返すという場面をよく目にするようになりました。発言者の謝罪を受け入れないことで、自分を優位な立場に置こうとしたり、発言者に負い目を感じさせて利用しようとしたり、あるいは、単に苦しんでいる相手の様子を見てストレスを発散したり(これは単なるいじめでしかありません)、と動機は様々でしょうが、簡単に相手を許さないと言う風潮が高まっているのではないでしょうか。

 

謝罪した者を追い詰める

かなり古い話になりますが、私の勤め先でハラスメント相談窓口ができたばかりの頃のことです。これについては、以前別の記事で触れています。

lambamirstan.hatenablog.com

 

社員からの苦情が窓口に寄せられると、人事部が事実関係を調査し、場合によっては賞罰委員会に付されることもできるようになりました。

 

それまでは、セクハラ、パワハラと言っても悪質なものでなければ人事部が間に入って穏便に解決していましたが、相談窓口開設後は、“穏便”に解決するというわけには行かなくなりました。賞罰委員会の下部組織であるワーキンググループが、事案の重大性や“被害者”の心情を総合的に判断し、委員会に付議するか否かを決定します。ワーキンググループは年齢構成や男女比率のバランスを重視し、ハラスメントの“被害者”と“加害者”を公平に扱うよう最大限の配慮がなされていました。

 

最初のパワハラ事案はそのような状況下で検討され、“加害者”の上司は担当役員から戒告を受けました。これは、減俸などを伴うものではありませんでしたが、処分決定後、当の上司は関連会社に出向となりました。社内では、本社から“追い出されたこと”が本当の意味での処罰だと捉えられました。幹部社員の中からは、いくら何でも厳し過ぎるのではないかという声もありましたが、社員に対してハラスメント相談窓口の存在をアピールするには打って付けの事案となりました。

 

ところが、この話はこれで終わりではありません。本来、パワハラ事案の当事者の名前は秘匿されるべきところ、何故かあっという間に社内及び関連会社にその名が広まりました。また、若手・中堅社員からは、関連会社出向では手緩いという声が高まりました。そして若手社員の“有志”が、厳罰を求める署名活動を開始したのです。

 

件の上司は、署名活動が続いている中、自己都合で退職していきました。出向してまだ日が浅かったものの、パワハラの噂が職場で飛び交い居づらくなったためとのことでした。パワハラに対する処分はすでに賞罰委員会で決定していたにも拘わらず、当の本人は会社が下した処分よりも重い罰を、何の権限もない集団から負わされることになったわけです。(続く)