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ハラスメント研修の効果

組織の中に身を置いている限り、人間関係にまつわるストレスから解放されることはない ‐ 私はそのように割り切っています。

 

三十余年の会社人生で私が体験したトラブルや悩みを“分類”してみると、大体が人間関係に絡んだものです。私が当事者でなくても、関係者間のコミュニケーションの悪さや敵対意識などが仕事の流れを阻害するケースは有りがちで、それに巻き込まれて余計な仕事が増えることも、また有りがちです。

 

職場環境の良し悪しと人間関係は切り離せませんが、組織内の人間関係を良好に保つための方法については、個々人のコミュニケーション能力や調整力に頼らざるを得ません。

 

他方、職場での禁止行為を明確化することによって環境改善を図ろうとしたのがハラスメント研修です。

 

たしかに、毎年行われているハラスメント研修は職場環境の改善の一助になっています。ハラスメント研修が恒例となってかれこれ十数年経ちましたが、職場での禁止行為を周知することで、女性社員や若手社員が働きやすくなりました。

 

大人の分別

ハラスメント研修では、セクハラ、パワハラ、様々なハラスメントの境界線の再確認を行なうことが目的のひとつですが、それ以外にも、社員全員に対して、少なくとも職場では“良い人”でいるように釘を刺しておく効果はあるのだと思います。

 

もっとも、本来であれば、やって良いことと悪いことは大人としての分別に委ねるべきところ、それができない人間がいるためにハラスメント研修が始まったことを思えば、職場でのハラスメント事例が減ったからと言って喜ぶようなことではないのかもしれません。“本来であれば”それが普通なわけですから。

 

そして、ハラスメント研修が一定の効果があると言いながらも、個人的には、個々人の本質的な部分を改善するなど無理な話だと考えます。自らが抱える仕事のストレスの捌け口として、これまでセクハラやパワハラを行なってきた人間が、注意を受けただけで心を入れ替えることができるとは思えません。

 

社内でのハラスメント事例が減少しているのは喜ばしいことです。しかしながら、ストレスの捌け口を求める心が潜行することで、今後、新な問題が生じるのではないかと一抹の不安を感じます。

 

以前、私がまだHR委員会の一員だった頃、別の委員と共同で人事部にある提案をしたことがありました。これまではハラスメントの加害者は賞罰委員会で処罰が下されて終わりでしたが、私たちの提案は、ハラスメントの被害者へのケアと同様に加害者に対しても必要に応じてカウンセリングを受けさせるというものでした。同僚や部下に対する嫌がらせ行為は、ストレスの対処法が間違っているためだと思うのですが、会社が処分を下すだけで終わりにしてしまっては、加害者本人が抱える問題の解決にはなりません。

 

その提案は残念ながら採用されませんでした。会社が加害者の心のケアまでする必要はないという意見が多数だったと記憶しています。(続く)