和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

娘の退職

先週の金曜日は、上の娘の最終出社日でした。仕事は午前中で終了し、年内は有給休暇を消化することとなります。彼女にとっては学生時代以来の長期休暇。家でゴロゴロしているのだろう ‐ そんな私の予想に反して、娘は休暇の間に友人との旅行や一人旅の予定を目いっぱい詰め込んでいるようです。

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「持ち帰る私物が多いから」と私は荷物持ちを頼まれていて、娘とは勤務先のビルの入り口で待ち合わせていました。昼休みも終わろうかという頃に姿を見せた娘は、少しはにかんだような表情を浮かべていました。それは、彼女が何かをうまく成し遂げた時に見せる顔でした。

 

この一年余りの間、一番つらい思いをしていたのは娘本人であることは間違いありません。何度か塞ぎ込んでいる様子を見せていた娘に、私は気遣いの言葉をかけることはあっても、仕事を辞めるよう勧めることは最後までしませんでした。そこは一人前の大人として娘が決めることだと考えたからですが、我ながらなんと薄情な親なのだろうと思ったこともありました。

 

他方、娘は自分のせいで家の中が暗くならないように気を遣っていたのでしょう。家族が集まる食卓では仕事の愚痴や弱音を吐くことはありませんでした。その気遣いのおかげで家族全員楽しく過ごせた一年でしたが、明るい部屋の隅にある電球がひとつ切れているような、そんな状態でもありました。

 

妻は、娘の転職に不満げな表情を浮かべたものの、それは娘の決断に対するものではなく、家族の中で最後に、それも本人ではなく私から聞かされたことへの不満でした。心配性の妻としても娘のことが気がかりな一年だったと思いますが、これでようやく安心できることでしょう。

 

これまで、娘の不登校や進学問題、就職問題、妻や私の健康問題と、毎年程度の差こそあれ、心配事を抱えて年を越すことがほとんどでしたが、今年は何事もなく新年を迎えられそうな気がします。“何事もない”ことの有難みをこの数年で実感してきた私は、自分の人生にもはやドラマチックな展開を期待していません。

 

小春日和のオフィス街。師走の忙しない空気とは逆に、私はどこかほっとした気分に満たされていました。