和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

旅行券

旅行券の塩漬け

毎年、この時期になると社内で永年勤続表彰が執り行われます。コロナ禍の間、表彰式と懇親会は中断していましたが、今年は三年ぶりの復活となりそうです。

 

一方で、転職者の増加により勤続年数の長い社員が激減していることから、表彰式は早晩廃止されることになるとの話も出ています。

 

私は二年前に三十年勤続を迎え、記念品と旅行券をもらいましたが、旅行券は特定の旅行会社を通じて使う必要があります。あらかじめ日にちを押さえなければならず、妻の体調の関係もあり、先々の予定を立てることができない私たちにとって、旅行券は使う当てのない代物でした。

 

銀婚旅行

私たちが海外駐在で約八年間日本を離れていた間、独り暮らしの義母の面倒を見ていたのは、近くに住む義兄夫婦でした。特に義母が亡くなる前の二年余りの間は認知症の症状も進み、義兄夫婦は交代で実家に寝泊まりしていたと聞きます。義姉は時折実家を訪れていたようですが、妻は半年に一回程度、母親の様子を見に帰国しただけで、義兄夫婦の手助けはできませんでした。

 

この正月に義兄と電話で話をした時、コロナ禍が明けたら、遅ればせながら銀婚式の旅行をしたいと聞いていたことを不意に思い出し、私は妻に義兄夫婦への旅行券プレゼントを提案しました。当面使う当てのない旅行券です。我が家で塩漬けにしておくよりも、記念の旅行に役立ててもらいたいと思いました。

 

その提案をした時の妻は、私を“カッコつけたがり”だと文句を言いつつも、表情からまんざらでもなさそうな様子は伺えました。私はそれをOKのサインだと受け取りました。

 

ただ、“プレゼント”と言うと恩着せがましく、義母の面倒を見てもらったお礼というのも如何なものかと思いました。妻も、もし義姉の知るところとなれば、またぞろ身内の厄介事が増えるのではと顔が曇ります。

 

そんな夫婦の会話を聞いていた下の娘が、「子どもから親へのプレゼントにすればいいのでは」と言いました。息子から両親へプレゼントする、というのはたしかに妙案でした。妻は甥に事情を説明して、「両親への銀婚旅行プレゼント」として旅行券を渡してもらうようにお願いしたようです。旅行券の行先が決まって、私は何となくほっとした気持ちになりました。