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人脈と信用力

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数に頼る信用力

仕事でもプライベートでも、良好な人間関係を欠かすことが出来ません。私のこれまでの経験では、仕事上のストレスは、仕事そのものの負荷よりも人間関係の悩みに起因するものの方が多かったと言えます。相対する人との関係で、相手を信用することと相手に信用してもらうことは、口で言うほど簡単なことではありません。私は幾度と無く、如何にして信頼関係を築き、それを維持するかで悩んできました。

 

私は職業柄、社外の方々と接する機会が多いのですが、正直に言うと、人と話すのが苦手です。とりわけ相手が初対面の方の場合、アポの前日までに相手の職歴や共通の話題を調べ、面談時に好印象を持ってもらおうとして、実際に相手に会うまでに気疲れしてしまいます。恐らく、私の同僚や部下は、私がそんなタイプの人間だとは気がついていないでしょう。

 

昨年の春以降は、そのように外部の方々と面談する機会がめっきり減ってしまったので、私としては、気分的に非常にリラックスしています。

 

人脈を広げたり、取引先との間で良好な関係を維持したりするのは、将来のビジネス機会を掴むためであることは言うまでもありませんが、何かあった時に頼れる先を多く持っておくに越したことがないと言うことも理由の一つです。

 

本来、頼りになる相手との間には、いざと言う時に当てにできると言う信頼関係が存在するはずです。しかし、信頼の厚みや深さを測ることが出来ないため、目に見える「数の多さ」に頼ってしまうのかもしれません。

 

実際に、仕事上の付き合いの中で、「あの人なら絶対に信用できる」、そして、「自分はあの人に信用されている」と言う間柄はどれだけいるでしょうか。私には、そのような全幅の信頼を寄せられる相手は片手で数えるほどしかいません。

 

使えない人脈

私の会社に限ったことでは無いのかもしれませんが、方々の取引先に知り合いが多いことを誇らしげに吹聴する者がいます。分厚い名刺ホルダーこそ自分が信頼される存在であることの証だと勘違いしてしまうのです。

 

勤め先では、役員を含め少なからず役所からの天下りを受け入れています。それは、官庁との間の柵から引き受けざるを得ないものでもあるのですが、会社からすれば、折角それなりのポストを用意して天下りを受け入れるのですから、役に立つ働きを期待するのは当然のことです。すなわち、各種の許認可の際の折衝や、役所とのトラブルを回避するための仲立ちなど、前職の“人脈”を駆使した活躍です。

 

ところが、時に、天下り本人が思っていたような“神通力”が全く通用しないことがあります。自分の古巣だった庁舎を訪れても、成果無く手ぶらで帰ってくると、社内でそれを揶揄する社員も出ています。

 

プライドの高い元キャリア官僚としては、自分が対外交渉の役に立たないと言うことは、認めたく無い事実であり、同じ屈辱を味わうことを嫌い、以後、社外折衝を避け、社内批評家に身を転じることになります。

 

話は逸れましたが、公務員でも会社員でも、人脈を広げることが出来るのは、もちろん、本人の努力もあるのでしょうが、組織の看板の力が大きいと言うことを忘れてはいけないのです。仕事上の付き合いは、相手に利用価値があるからこそ成り立つのです。利用価値の無くなった相手や、人徳の無い元上司が丁重に扱ってもらえるほど世間は甘くないのです。

 

自分が人脈だと思っていたものが、実は何の役にも立たないものだと思いたくありませんが、頼りにしたい相手の心の内を推し量ることは出来ず、それが不安を掻き立てます。

 

必要としている相手と、数多く顔を合わせていれば気心が知れるわけでは無く、そうかと言って、一度会っただけで何でも言い合える間柄になれるわけではありません。どのように相手の懐に飛び込んでいき、腹を割って話し合えるようになるのか。私が人付き合いで一番腐心しているところがここです。

 

どんなに多方面に“知り合い”が多くても、何かの時に「一肌脱ごう」と言ってくれるような相手でなければ、人脈でも何でもありません。持っている名刺の数では無い、それぞれの相手との間のパイプの太さがものを言うのです。そういう意味で、使える人脈を持つと言うのは並大抵の努力では無しえないのだと思います。

 

中には、人脈を活かして転職に成功した同期入社を羨んで、それを模倣して取り返しのつかないことになった者もいます。自分が転職する時の伝手として人脈を広げていても、相手から見て、転職先にとって何のメリットも無い人間なら、その相手もわざわざ仲立ちすることはありません。

 

仕事上の付き合いでは、相手にとって耳触りの良いことしか言いません。お互いに誉め上手なのです。それを真に受けて、「自分を高く評価する会社はいくらでもある」とか、「この人脈があれば、転職先で重宝がられるだろう」などと簡単に考えていると、酷い目に遭うことにもなりかねません。

 

私は社内でそのような上役や同僚を多く見てきています。人脈の広さをひけらかしたり、著名な人間と知り合いだと言うことを自慢したりするような人間は、それをもって、自分の有能さをアピールしたいのでしょうが、そもそも、そのようなことを吹聴して回っていること自体が、人間的な底の浅さを露呈していることになるのです。