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老後の前のハッピーアワー

コミュニケーション不調 (1)

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顔が見えない会議

私の勤め先では、昨年の春のステイホームに伴い在宅勤務が開始されましたが、秋頃から、「週の半分は在宅での勤務を行なうことを目途とする」と言う、要領を得ない社令が出されました。裏を返せば、週の半分は会社に顔を出すようにということのようでした。

 

私の部署を含めいくつかの部門では、在宅で仕事を行なえるのであれば、出社する必要は無いと部下に伝えています。通勤途上もさることながら、人が集まる社内にいれば、新型コロナへの感染リスクは自ずと高まります。仕事の結果が出せるのであれば、出社することを強制されるものではありません。

 

また、この9か月余りの間で、在宅勤務でも社員間のコミュニケーションや会議・打ち合わせに支障が無いことが証明されたことから、私としては「現状に問題無し」と上に対して説明し続けてきました。

 

現状に問題無し。確かに今のところ問題は無いのですが、この数か月の間でリモートワークの質に変化が表れ始めたことを私は感じ取っていました。

 

4月から8月頃までは、ビデオ会議システムでの打ち合わせや会議では、お互いに顔を見ながら議論を進めていました。会議室に集まって行なう従来の会議と違い、モニター上に映し出される出席者の顔を見ながら行なう話し合いは、真剣な議論になればなるほど、相手の考えを顔色から読み取ろうとするため、これまで以上に集中力が求められました。そのため、長時間の会議には向いておらず、会議の時間も極力短くするように配慮されました。

 

これが、最近では、出席者はカメラをオフにすることが半ば不文律となり、お互いの顔を見せないで議論を行なうようになったのです。

 

私の部署では、当初は一部の部下からの要望もあり、ビデオ会議システムをつないだ状態にして、いつでも相談できる環境を整えていました。ところが、別の部下から、このやり方に不平が上がりました。周囲から常に監視されているようで仕事に集中できないと。私は、常時つながっている必要は無く、それを強要するつもりもないので、負担に感じるようであれば、オフラインにして仕事をしても構わないと言ったのですが、当の部下は、それでは自分のいないところで何を話されているのか気がかりになってしまうと言います。

 

結局、在宅勤務中に相談が必要となった場合には、チャットで声掛けをするようになりました。在宅勤務でのコミュニケーションのあり方は、“これがベスト”と言うものにたどり着いておらず、上意下達で決めるべきではないとの考えから、私は部下に対して何かを強要することは差し控えてきました。

 

その後、打ち合わせ時にカメラをオフにする者が一人、二人と増えて行き、今では私以外は顔を見せる者はいなくなってしまいました。離れていても相手の顔を見ながら話ができると言うビデオ会議システムのメリットが、いつしかデメリットとなり、落ち着く先は以前からある電話会議と変わらないものに逆戻りしてしまった感があります。

 

リモート会議のハードル

相手の顔が見えない会議や打ち合わせは、春先から実践されているリモート会議のハードルをさらに上げるものになったと感じています。

 

これまでは、相手の顔色を窺い、納得しているのか不満なのかを嗅ぎ取ろうと努めてきましたが、これを相手の声色だけで行うのは、さらなる集中力が求められます。電話会議システムは、新しいものではありません。これまで、国内・海外の取引先や交渉相手との間での会議でも使われてきたツールではありますが、重要な内容の会議で、ここぞと言う時には直接対決に勝るものは無く、わざわざ高い航空券代を払ってまで相手に会いに行くのもそのためでした。

 

私は、ビデオ会議システムは、バーチャルな膝つき談判を可能にするものだと期待していました。実際、取引の交渉相手との会議では、会議時間中、否が応でも緊張状態を維持せざるを得ず、集中して議論できる点でメリットありと思いました。

 

ところが、社内の打ち合わせや、若手社員も交えたブレストなどでは、一つ一つの発言に注目される“度合い”が、実際の会議以上である(と感じられる)ことや、緩急のある実際の会議とは異なり、発言者のみならず出席者全員が“周囲から見られている”緊張感に晒されることから、いつしか、顔を見せながらの会議を避ける傾向が高まってきたのでした。

 

それと同時に、無発言者が増えてきました。会議には出席するもの、自分の発言に対する反対意見が出た場合、誰かが助け船を出すようなことが少なくなったことが原因かもしれません。実際の会議では、誰かの意見に賛同する者は、首肯せずとも目を見れば分かると言う場合があります。また、会議室の雰囲気から、自分の発言が受け入れられているかを感じ取ることも出来ました。そこにバーチャル会議の限界があるのでしょう。

 

在宅勤務でも、出社しているのと変わらすコミュニケーションが取れる。仕事に支障は無い。表面上は今はそうかもしれません。しかし、真剣な議論を行ない、成果を生み出すためには、今一度リモート会議のあり方を考え直す時期に差し掛かっているのだと思います。(続く)