和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

老後の住環境 (1)

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終の棲家が重しとなる

老後を考えると言うと、真っ先にお金のことが頭に浮かぶ人が多いのでしょうが、私は、自分の両親の老後生活を見て、どのように暮らすのかを具体的にイメージすることの方がより大事だと思いました。

 

老後の暮らし方次第で必要な生活費も変動します。リタイアした段階で十分な資金が手元に用意出来たと思っていても、受け取る年金と生活レベルが見合っていなければ、預貯金からの取り崩しが予想を超えて、老後生活が破綻することだってあり得るのです。

 

また、お金の心配が無くても、自分たちのスタイルと合わない環境で暮らすことになると、老後生活はとてもストレスフルなものになってしまいます。従って、どのように老後生活を送るのかを出来るだけ具体的に考えておくことが必要だと思います。

 

私の両親は、父親のリタイアを機に伊豆の観光地に引っ越しました。夫婦二人でのんびりとした生活を満喫したいとの希望を叶えたかったのでしょう。天気の良い日には伊豆大島が見える高台の地、都内では考えられない広々とした土地を手に入れ、私の両親は家庭菜園を楽しむなど、悠々自適の老後生活を始めました。

 

別の記事でも触れましたが、私の父は事業に失敗し、会社は実質的に破綻しました。父は会社経営に未練があったのでしょうが、私が説得したこともあり、傷が浅いうちに会社を畳み借金を完済し、ささやかながら老後の蓄えになるお金を手元に残すことが出来ました。すでに年金を受け取り始めていた父は、これでようやくお金の心配をすることなく余生を過ごせるようになったのでした。

 

両親にとっては、その後の数年が最も幸福な時期でした。母は引越し後3年目にリウマチと診断され、以降、現在まで両膝、両肘に人工関節を入れる手術を行いました。父は、引っ越し後の6年目の春を迎えることなく他界しました。一人残された母は、父と過ごした家を離れることが出来ず、今でも独り暮らしを続けています。

 

かつてほど体の自由が利かない母にとっては、身の回りのことは何とか自分で出来ますが、家庭菜園どころか、庭の手入れすら続けることなど無理です。畑のあった場所は、今はただの空き地となってしまいました。それは、伴侶を失った母の心情そのもののような気がします。

 

たまに訪れるには気持ちの良い観光地でも、生活の拠点としては決して最良の地とは限りません。車の運転が出来ないと買い物や通院など外出もままなりません。また、上り下りの多い地は、足腰が弱くなった高齢者が生活を送るには大きな障害となります。

 

広々とした土地、家庭菜園、車での遠出。体が健康なうちは豊な老後生活を楽しめるのでしょうが、予期しない怪我や病気、あるいは健康寿命を過ぎた後のことまで考えると、どこに生活の拠点を置くかと言うことはとても重要です。

 

母は私のアドバイスにも拘わらず、今の家を離れるつもりは無いようです。不自由な生活であることは本人が一番良く分かっているはずですが、父との想い出を捨てることが出来ないのでしょう。とは言え、年々衰えていく母の健康状態を考えると、思い出の地での生活もそれほど長くは楽しめないと思います。それを母に決断させるのは酷なことですが、息子の私が説得する以外にありません。

 

老後生活のための拠点

結婚当初は、妻も私も、将来家を買うとしたら、都会の喧騒を離れて静かな環境で暮らしたいとか、通勤を考えたら都心に近いマンションが良いとか、その時々で考えが変わっていました。しかし、定年後の生活が現実味を帯びてくるに伴い、私たちは、老後まで見据えた生活の拠点は、利便性を優先したいと思うようになりました。

 

リタイア後の生活。妻と私が話をすると、いつも出てくる言葉は、「同じ生活レベル」、「自分たちのペース」、「安心感」の3つになります。3年前に家を建てる際に、これから先、老後も含めてどのように暮らしていきたいかを夫婦で話し合った時に出てきた言葉が、その後、折に触れ老後の話をする時のキーワードとなりました。

 

お金は不安を解消するための安全装置にはなりますが、生活に豊かさを与えてくれる保証にはなりません。生活の豊かさは自分たちの心の持ち様に左右されるからです。今の収入、退職金、年金 - 入ってくるお金に心を動かされずに、生活レベルを変えずに生きて行くこと、周囲の声に惑わされずに自分たちのペースで暮らすこと、そして、安心を感じられる当たり前の日常を送ること。これが私たち夫婦の老後生活の柱です。

 

私たちが引っ越しを考え始めたのは、海外駐在から日本に帰国後すぐのことでした。最初は何から始めたらいいのか見当もつかなかったので、社宅近くの住宅展示場や分譲マンションのモデルルーム、売り出し中の物件を手当たり次第に見て回りましたが、見る件数が増えるほどに、自分たちに合った家のイメージが分からなくなってしまいました。持ち家 vs 賃貸、戸建て vs マンション、建売 vs 注文建築・・・。私たち家族にとって何がベストなのか。選択肢ばかりが増えて考えがまとまらない状態が続きました。

 

私たちが幸運だったのは、たまたま地元の建築会社で、住まいに対する考え方に共感できる設計士の方にお会いできたことです。

 

どのような家に住むのか、ではなく、どのように暮らすのかをまず考えることが大切、と言うのが設計士さんのアドバイスでした。住む場所や家に自分たちの生活を合わせるのではなく、今の自分たちの暮らし、そして、これから先の自分たちの生活に合った家を探す、あるいは建てると言うものです。

 

それまでに見て回った物件は、ロケーションは二の次で、建物のことばかりを気にしていました。また、リビングや各部屋の広さなどの間取りばかりに目が行ってしまい、それが自分たちの望んでいる生活スタイルに合ったものなのか、と言うところまでは思いが至りませんでした。

 

平日や休日の家での過ごし方、家族との時間、自分だけの時間、自分や家族の希望する生活スタイルはどんなものなのか。そのためには、どのような場所、どのような間取りの家が理想なのか。まずは頭の整理を行うことが先でした。(続く)