卒業式の無い春
上の娘がこの春大学を卒業しました。2月の初旬に、家族写真の前撮りを済ませ、あとは本番の卒業式を待つばかりでしたが、3月に入り、学校から新型肺炎の影響による卒業式取り止めの連絡が来ました。楽しみにしていた卒業式ですが、このご時世、やむを得ないことです。私も娘も学校の判断を支持しています。
また、家族そろって卒業記念の食事会をしようとレストランを予約していたのですが、日を追う毎に新型肺炎の被害は広がるばかり。都知事が週末の不要不急の外出自粛を要請するに至り、家族での食事会もキャンセルすることにしました。結局、普段の週末の夕飯をちょっとだけ贅沢にした食卓を家族で囲むことになりました。
外出を自粛するようになると、家族そろって家で食事を摂る回数も増えます。つい最近まで、娘たちはアルバイトや友達付き合いが忙しく、家族4人で食卓を囲む日も限られていましたが、外出を控えるようになってからは、平日も週末も食卓には4人分の食事が並ぶようになりました。4人集まると – 特に女子3人がそろうと – 食事の場が途端に騒々しくなります。少し前まで私は、「やっぱり全員そろわないと寂しいね」などと言っていた時期がありましたが、今は賑やかな食卓が戻ってきました。
さて、上の娘ですが、落ち込んでいると思いきや、卒業式の日の夜は、親しい友人数名でビデオチャットを楽しみながら“酒盛り”をしていました。娘の部屋からは夜遅くまで話声が漏れてきていました。
外出自粛を楽しむ
新型コロナウィルスの影響で内定を取り消す会社が出てきました。娘の就職先はIT系のまだ若い会社でしたので、親としても、「もしや・・・」などと悪いことを考えてしまっていましたが、幸い、会社は内定者全員をしっかり採用してくれるようで、親子ともども胸を撫で下ろしています。ただし、会社は現在全社員に在宅勤務を行わせており、社内での新入社員研修を行う準備が間に合わないとして、娘の初出勤はまだいつになるか分からないようです。
下の娘はこの春から大学2年生になりますが、学校の講義は5月下旬からの開始となるようで、こちらも今はほとんどの時間を家で過ごしています。
また、現在私も妻も在宅勤務なので、娘たちからしてみると両親が家に引きこもっているようにしか見えず、この家は大丈夫なのかと不安に思っているかもしれません。
今回の騒動がいつまで続くのか。先行き不透明な時代の幕開けなのかもしれません。娘たちも親に対しては明るく振舞っていますが、これからの人生に不安を感じているに違いありません。
心配性の妻は、家族の行く末、とりわけ、娘たちの将来が気になって夜も眠れないそうですが、ここで親が娘と一緒になってあたふたしていてはだめです。親が不安がっている様子を見れば、2人の娘もなおさら動揺してしまいます。私は仕事の合間の時間を極力娘たちとの会話に充てています。会話と言っても他愛無い内容ばかりで、外出自粛が解かれたらやりたいことなどを話し合ってる程度ですが、何か明るい目標があるだけで、目の前が開ける気分になるのではないでしょうか。
考えてみると、こんなにも長い時間、親子が家の中で一緒にいることはありませんでした。毎日、朝昼晩と親子で食事の支度をし、食卓を囲み会話を楽しむのは、娘たちが小学生の頃以来です。私はこれを家族にとっての滅多にないチャンスだと考えることにしました。
仕事のスタイルが変わる
出社せずに家で仕事をすることに慣れてくると、不思議なことに、これが当たり前の生活になってきます。現在、どうしても会社に出ないと行えない業務のため、週1~2回は“出社”していますが、何だかそれも億劫になりました。ほとんど家に居ながらにして仕事をしている私を見て、下の娘は、「どうして今まで毎日会社に通っていたの?」と素朴な疑問を投げかけます。
たしかにそうなのです。今まで私は何の疑問も抱かずに、生活するため ‐ お金を稼ぐため ‐ には、毎日会社に通って仕事をしなければならない、と勝手に思い込んでいただけなのです。
事実、在宅勤務でも部署としての仕事は進んでおり、必要な時にはビデオ会議システムで部内会議を行って業務の進捗の確認や、課題解決の議論もできるのです。部下たちも、この緩やかなつながりの中で仕事を行うことに対して最初は戸惑いもあったようですが、今ではこれが普通の仕事のスタイルだと受け止め始めているようです。
また、私が在宅勤務をすることで、娘たちには、私が仕事をしている姿を近くで見ることになりますが、これも良かったようです。2人の娘は「パパは本当に仕事してたんだ」と冷やかしと驚きの混ざった言葉を漏らします。
まだしばらく在宅勤務は続くようですが、仕事をきちんとこなしながら、家族との時間も大切にできるわけですから、このままテレワークをスタンダードな勤務形態にしても良いとさえ思えます。
そんなことを人事部長に話すと、「在宅勤務は緊急避難的に認めているだけだから。テレワークだと勤怠管理ができないでしょ」と優等生的な回答。しかし、会社に出てきても、仕事をさぼっている人間が案外多いことを私は知っているのです。
在宅勤務がスタンダードになると、“仕事をしている振り”は通用しなくなり、より結果を重んじるワークスタイルに変わって行くのではないでしょうか。分からなことがある時には、受け身ではなく自分から質問して回る必要が生じるため、積極的なコミュニケーションが求められます。在宅勤務の意外な効能がこれから見えてくるのではないかと思っています。