利己主義の成れの果て - 和尚さんの水飴

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買い漁りの心理

新型肺炎騒ぎが続き、依然としてマスクや消毒用のアルコールなどが入手困難となっているようです。幸い、我が家は下の娘が酷い花粉症のため、ある程度の数のマスクをストックしていたので慌てることはありませんでしたが、それでも、マスクは洗って再利用するなど気を遣って暮らしています。

我が家のお隣に60代のご夫婦と奥様のお母様が暮らしているのですが、先日ゴミ出しの時の立ち話で、どこの店に行ってもマスクが売り切れで困っていると聞きました。私は家にあるマスクを1ダースお譲りしました。日頃からお裾分けを頂いたりとこちらも何かとお世話になっているので、困っている時はお互い様だと思っていたのですが、奥様から「こんな貴重品を・・・」と言われて、今さらながらマスクが貴重品になってしまったのだと実感しました。

こんな騒ぎがなければ、マスクや衛生用品はいつでも手に入るものなのに、なぜ急に入手困難な貴重品になってしまったのでしょうか。メディアでは、開店前から長蛇の列を作る人々の姿が報じられています。商品が品薄だと知ると不安に拍車が掛かります。買い溜めしたくなる心理も分からないではありません。

しかし、マスクを手に入れられない人がまだ多くいるということに思いが至らないのだとしたら、それは悲しいことです。当たり前のことですが、ひとりひとりが、当座必要となる分だけ物を買うようにすれば、品不足はこれほど深刻にならないはずなのです。

新型肺炎騒ぎで、人々の心から余裕が無くなったと見る向きもあるかもしれませんが、心の余裕以前に、思慮の欠片すら無い人が多いからこそ、このような騒ぎが起こると我先にと必要以上に物を買い漁る現象が起きるのではないでしょうか。

パンを分け与える人

まだ私が入社3年目の時、役員の“鞄持ち”で北米に出張したことがありました。約1週間で、取引先への表敬訪問と現地の工場の視察を終え、“予備日”として空けておいた最終日は、現地事務所の所長の案内で“市内視察”となりました。

昼食の時間となりましたが、特に店を予約していなかったところ、役員から「ハンバーガーが食べたい」とのリクエスト。何でも、若い頃の海外出張では、当時日本ではあまりお目にかかれなかったハンバーガーを食べるのが楽しみだったとか。所長が運転する車は、最初に目についたファストフード店に入りました。

私たちが入店しようとすると、駐車場の木陰に、その風貌から明らかにホームレスと分かる老人が座り込んでいました。その横を通り過ぎようとした時、役員が老人に話しかけました。みすぼらしい身なりだったため、入店を拒まれたということのようでした。

店に入った私たちでしたが、役員は一人分余計に注文すると、私にそれを先ほどのホームレスに届けるように命じました。私はあまり気が進みませんでしたが、上司の命令には背けません。

ハンバーガーとコーラの入った紙袋を老人に手渡すと、彼はズボンのポケットからよれよれの紙幣を取り出し私の手に握らせました。お金を返そうとする私に彼は鋭い眼光を向け、ぶっきらぼうに一言「ありがとう」とだけ言うと、紙袋の中からハンバーガーを取り出します。そこに、匂いに釣られたのか、野良犬が恐る恐る近づいてきました。すると、彼はハンバーガーを一口分千切り野良犬に向かって放ったのでした。

私はとぼとぼと店に戻りました。空腹に違いなかった老人は、それでも、野良犬と食べ物を分かち合いました。自分の勝手な思い込みで、私は彼がファストフード店に物乞いに来ていたと勘違いしていました。“腹を空かせた年寄りを助けてやる”。そんな上から目線の思いがあったのです。食べ物を恵んでやれば、老人は涙を流して喜び、我々に感謝するはずだと。

しかし、実際には彼は食べ物を買い取ったのです。決して恵んでもらおうなどというつもりは無かったのです。その上、たった1個のハンバーガーの、最初の一口を野良犬に差し出しました。彼の心根の優しさを目の当たりにし、私は自分がそのような他者を慮る心を持ち合わせていなかったことを恥じ、顔が赤くなるのが分かりました。