和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

五月病

連休前の気がかり

間もなくゴールデンウィークが始まります。私がまだ管理職だった頃は、家族サービスの傍ら、部下との期末面談のフィードバックを準備したり人事考課の素案を作ったりと、大型連休をフルで楽しむのは無理な話でした。それが、一昨年からは、そのような煩わしさから解放され、五月の大型連休は私にとって名実ともにゴールデンウィークとなりました。

 

他方、この時期、私の気がかりは同僚の「五月病」です。以前は、五月病と言えば新入社員が罹るものと考えていましたが、実はそうではありません。年度替わりの異動や役職の変更による環境の変化。そのような変化に対応している矢先に長い休みに入ることは、気分転換のチャンスである反面、変化に苦しんでいる者にとっては、抱え込んでいる悩みを増幅させてしまうこともあるようです。

 

ホープ喪失

私がまだ若手社員だった頃に、同じ部署に入社二年目の後輩がいました。とても明朗で上司からの受けも良く、正に若手のホープ的な存在だった彼ですが、ゴールデンウィーク明けから出社しなくなってしまいました。

 

連休中に帰省していた後輩は、当初、風邪をひいたと言って、私に休暇願の代理申請を頼んできました。電話口での話しぶりは普段と変わらない様子でしたが、二日間の有給休暇後も会社に顔を出しませんでした。

 

直属の上司からの指示で、私は彼の実家に電話を入れました。まだ携帯電話が普及する前の話です。電話に出た彼の母親は、まだ自室で寝ている息子が無断欠勤したことを知りませんでした。

 

大分待たされてから電話に出た後輩は、私に「明日は出社します」と言いましたが、それから二日経っても彼は会社に顔を出さず、ついに上司が動き出しました。

 

彼と電話をするために応接室に籠っていた上司は一時間余りも話し込んでいましたが、退職したいと言う彼を引き留められず、最後は母親に代わってもらい、彼の進退について家族でよく相談するよう言い残して電話を終えたのでした。

 

私は再び彼と顔を合わせることはありませんでした。あまり心を開かなかった私と違い、後輩は上司と馬が合うように見えたので、上司にとって“若手のホープ”の喪失は単に部下が一名減った以上の打撃だったのだと思います。

 

後輩が会社を辞めた理由ははっきりとは分かりません。上司も私も悪い予兆を見逃していたのかもしれませんが、明るく仕事に取り組んでいた彼が、十日足らずの休みの間に出社出来なくなってしまうなど誰も想像出来なかったことでしょう。

 

今私と一緒に仕事をしている若手社員が連休に帰省する話をしていたので、ふとそんな昔話を思い出してしまいました。もっとも、私の相棒の場合、彼女を両親に紹介するための帰省だそうで、余計な心配は無用のようです。