和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

ネズミが逃げ出した船は

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やりたい仕事ができない

昨今、人手不足により廃業する中小企業が増えているそうです。従業員数の少ない会社では、人員の補充が思いどおり進まなければ、足元の業績がどんなに良くても事業を継続することができなくなってしまいます。

 

若くして起業家を目指す若者がいる一方で、先行きの不透明感から、できるだけ大きい企業に勤めたいという安定志向の人たちが増えているというのもまた事実です。

 

また、雇う側も、新卒採用一辺倒という会社は今ではほとんど無く、即戦力として期待できる人材をキャリア採用という枠で取り込もうとしています。即戦力を積極的に採用することは今や企業としては当然の取り組みと言えますが、他方、人材流出、すなわち即戦力の喪失に喘ぐ会社もあります。もし、内部からの人材流出が止まらないという事態になっている会社があれば、早晩、冒頭で書いたとおり廃業に追い込まれかねないと言えます。

 

問題を直視しなかった結果

さて、私の勤め先ですが、40歳前後の従業員の数が極端に少ない状態が続いています。そもそもこの年代は就職氷河期と呼ばれる世代。我が社でも、この年代は新卒採用を手控えていた時期でした。その後、中途採用で補充を試みていますが、中途採用者の定着率が思いのほか低く、期待通りの人員補充ができていません。思えば、約20年の間、会社はこの年齢層の薄い状態が深刻な問題となることを予見しながら、それを直視することなく有効な手立てを講じてこなかったわけです。

 

そして、数少ない彼ら・彼女らが会社の中で重要な役回りとなり始めると、突然問題が顕在化しました。私の部に関して言うと、新規のプロジェクトを立ち上げる際の“参謀役”が居なくなってしまったことが大問題です。

 

部の下に新たなチームを作ろうにも、リーダーに相応しい人材は全て他の部署に囲われていて手が出せません。何としてでも着手したい仕事があれば、中途採用でリーダーに相応しい人材を確保するところですが、それが叶わない場合には部長がリーダーを兼任するか、能力・経験ともにまだ不十分な格下の社員を登用せざるを得ません。

 

部長がプレイヤーとなってしまうと、他のチームへの目が行き届かず、部全体を俯瞰的に見る余裕も無くなってしまうため、様々なところに綻びが生じてしまいます。また、格下の社員を登用した場合、意外な能力を引き出せたというケースもありましたが、これは稀で、多くの場合、重圧により自信を喪失したり、チームをまとめられずに業務停滞を招くこととなってしまいます。そのような場合、結局は部長が自ら手を動かさなければならないこととなり、結果、部全体が疲弊することとなります。

 

ビジネスチャンスが目の前にあるにも拘わらず手が出せない事態が度重なると、部内のモチベーションが低下するだけでなく、会社そのものに対する不信感が芽生えることにもなりかねません。

 

社員が期待していること

ビジネスチャンスはある。しかし、現有勢力で回せる仕事には限界がある。そうなると、事業化構想の多くが塩漬け・中止となり、会社の成長を著しく阻害することとなる・・・。

 

目の前で起こっている問題を書き出してみると原因はとても単純で、特定の役職を担うべき特定の年齢層が不足しているだけなのです。どうしても人を採りたければ、それに見合う給料を払えばいいのでしょうが、年功制度がしっかりと残っている我が社では限界があります。

 

そして、そのような事態に追い打ちをかけるように悪いことが続きます。自己都合退職者の増加です。これは今始まったことではなく、10年ほど前から目立ち始めた現象です。だた、ここ2~3年は、その年に採用した数と同じくらいの自己都合退職者が出てきたため上層部も慌て始めています。

 

「社長と社員の対話集会」や「役員と若手社員の昼食談話会」など、役員の方から社員の話を直接聞こうという姿勢に変わってきました。私も対話集会に出席しましたが、社員が社長に直接物申す機会は結構なことだと思います。ただし、若手・中堅社員が本当に期待しているのは、「自分たちの話を聞いてくれる経営者」ではなく、「会社のビジョンを語れる経営者」です。

 

やや減少傾向にはあるものの、今でも若手・中堅の自己都合退職の動きは止まりません。社長以下役員が社員との対話の場を設けても、今までの不信感や将来への不安がすぐに氷解するわけではないのです。むしろ、親しかった同僚や先輩が退職すると、そのような雰囲気に流されてしまうということが往々にして起こります。せめてもの救いは、自己都合退職が集団化する前に、上層部が動き始めたというところです。

 

ただし、これからが経営陣にとっての正念場です。10年後、20年後の会社の将来像を見せなければ、個々の社員の将来像も見えてきません。若手・中堅社員の機嫌を取り、待遇を少しぐらい良くしたところで、根本的な問題解決にはなりません。沈む船から逃げていくネズミを捕まえることができても、船は沈み続けます。