和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

働き方改悪

新年度より就業規則が改定となり、在宅勤務は週二日までに制限されました。コロナ禍において導入された在宅勤務。社員の間では評判が良かったはずなのですが、会社が気に食わなければ、社員にとってどんなに良い制度も取り上げられてしまうのだと分かりました。

リモートワークをきっかけに通勤の便の悪い地に転居した社員や在宅勤務を前提とした家事・育児の分担をしてきた社員は少なくありません。彼ら・彼女らにとっては、在宅勤務の制限は労働条件の改悪です。

“働き方改悪”の結果は、別のところですでに見え始めていました。在宅勤務制度と併せてフリーアドレス化を進めていた職場。当初、“実証試験的に”導入したはずのフリーアドレスは、検証に時間をかけることなくなし崩し的に本格導入されましたが、在宅勤務日数が制限されたことで、執務室の人口密度が俄かに高まりました。

コロナ禍の最中のような三密を避ける必要はなくなったとしても、パーソナルスペースを十分に確保できない職場では、普通の会話の音もキーボードを叩く音も集中力を殺ぐ雑音になります。労働環境としては最悪です。

新年度最初の一週間、私はそのうちの三日出社しましたが、かなりのストレスを感じました。仕事以外で気が重くなることなどありませんでしたが、これから先、平日の半分以上をあの場所で過ごすことを考えると憂鬱になります。

このことで、在宅で仕事をする有難みを一層強く感じました。自室にこもっての勤務は、心静かに仕事に集中できます。たまに聞こえてくるのは鳥のさえずりくらいのものです。

出社するのが煩わしいと思うようになった私が、定年までの約四年間を我慢できるのか、あまり自信がありません。

欠員補充

新年度を迎えて一週間が経とうとしています。私の部署には新入社員一名が配属されることになっており、新人研修を終えてゴールデンウィーク前には欠員の穴が一つ埋まることになりますが、それで部署の仕事が俄かに楽になるわけではありません。

新入社員を受け入れる課は、かつては課長以下五名で仕事を回してきました。それが、この三年余りの間に、異動や転職によって減員となり、欠員が補充されないままに今では課長と部下一人になっていました。欠員は他の部署からの兼務で凌いできました。

昨日、新入社員を受け入れる課の課長と話す機会がありました。課長が「新人が仕事に慣れたら、いずれ私の仕事のサポートもしてもらう」と気前の良いことを言ったのは、欠員補充が叶って一安心したからなのでしょう。私は課長の上機嫌に水を差しはしませんでしたが、心中はあまり穏やかではありませんでした。

欠員の補充は喜ばしい話とはいえ、新入社員がすぐに戦力になることなど期待できません。たった一人の部下は、自分の仕事に加えて新人を指導する仕事が増えるわけで、一時的にはむしろ業務負荷が増えることを覚悟すべきなのです。

新入社員からすれば、一回り以上も年上の社員が指導役になります。年齢差による考え方やコミュニケーションの取り方の違いは、ともすれば大きな壁にもなります。

私は悲観的なのかもしれません。しかし、若手社員の転職に歯止めのかからない我が社において、新入社員の受け入れは、ひと昔前よりも一層責任重大で、能天気に浮かれている状況ではないということは知っておく必要があります。

再雇用嘱託の退職

使い勝手

来週から新年度というタイミングで三月の人事異動の追加発令が公表されました。追加されたのは両手で余るほどの自己都合退職者。その半分は定年退職後に再雇用された嘱託社員でした。

六十歳の定年後、本人が希望すれば五年間は嘱託として働ける制度にも拘わらず、年度末の区切りで複数名が自己都合で退職するというのは、私は今まで聞いたことがありませんでした。

ただ、それは私にとって大きな驚きではありません。

数年前から採算性の悪い地方の事業所を統廃合する計画が立てられており、それに伴い地元での新卒採用を中止していました。それ以降、人手不足は本社からの転勤者で回していましたが、今のご時世、単身赴任を嫌う社員は少なくありません。そのしわ寄せを被るようになったのは、独身の社員や再雇用嘱託の社員でした。現場においては、とりわけ経験豊富な再雇用嘱託の社員は使い勝手が良く、そのニーズが高まりました。

 

悪平等

今、会社は単身赴任者へのインセンティブとして手当の復活を検討しています。会社が、「属人的な手当を廃止し」、「給与の平準化を図る」として、単身赴任の二重生活による負担を軽減するための「単身赴任手当」を廃止したのはほんの数年前のことです。

当時、社員の中からも反対の声が多かったにも拘わらず、それを押し切って強行した給与制度の改定でした。お金が全てではなくとも、昨今、単身赴任を忌避する社員が増えているのは制度の改悪と無関係とは言えないような気がします。

“社員は勤務地によって給与に差をつけない”というのは一見もっともらしく聞こえますが、勤務地ごとのハードシップや家族と離れ離れに暮らすことの経済的・精神的な負担を無視すれば、それは処遇の平準化ではなく悪平等になってしまいます。

会社は、転勤や異動に伴う苦労は人事考課に反映すると言いますが、社員の側からすれば、評価の差は見えません。また、今の制度では、会社員としての終盤にどんなに苦労をしても、再雇用嘱託の給与に反映されることはありません。

現役時代より給与が下がった上に、会社員としての最後の数年間、住み慣れない土地で過ごすのは耐えられない社員もいることでしょう。

新年度を迎える直前になって自己都合退職者を公表したのは、会社にとって都合の悪い事実だからなのかもしれません。