和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

時の流れ

三十年余りの会社人生が一区切りしました。

走馬灯のように ― というと使い古された言い回しになってしまいますが、帰りの電車の中で過去の出来事が次々に浮かんでは消えていきました。不思議なことに良い思い出しか浮かんでこなかったのは、これまで私を支えてくれた多くの人たちのお陰です。

退職に際して、部内の有志で私の入社以来の略歴を作ってくれました。私の“歩み”の横には世の中の動きが並んで書かれていたのですが、改めて三十年という時間の長さを感じさせるものでした。

入社前後の歴史的な事件というと、湾岸戦争ベルリンの壁崩壊、ソビエト連邦解体が挙げられます。三十年前の出来事ともなれば歴史教科書の話ですが、私の感覚では、ついこの間までドイツが東西に分断されていて、世界の三分の一が共産主義国家で、ロシアとウクライナが同じソ連でした。

そういえば、私がまだ二十代の頃に役員の鞄持ちで出張した際、道中の会話で件の役員が「前の戦争で」という言葉に、「湾岸戦争ですか?」と尋ねたところ、「十五年戦争だよ、君」と呆れられたのを思い出しました。すでに終戦から五十年経っていても、戦争を体験した人からすれば、それはついこの間の“前の戦争”だったのでした。

私はあと何年生きられるか分かりませんが、もし、運に恵まれて三十年後もこの世の空気を吸っていられたとしたなら、「ついこの間退職したばかりなのに」と、時間の過ぎる早さに感慨を深めることになるのでしょうか。