和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

人材争奪戦

会社に求めるもの

私の勤め先の若手社員と話をしていると、長く勤められる会社よりも、自分を成長させてくれる会社を、また、勤続年数に応じて昇給する年功制よりも自身の経験や能力を正当に評価してくれる会社を志向していることが分かります。

 

会社側は、若手・中堅社員の離職率を下げたいようですが、とりわけ今の若手社員は見切るのが早いため、なかなか会社の思惑どおりには事は進んでいません。

 

“丁稚制度”とまではいかなくても、安い給料で下働き的な仕事をさせられる一方で、育成プログラムが充実していなければ、働いている側は自分が組織の中で成長していける自信を得ることが難しいのかもしれません。かつて私が先輩社員から繰り返し言われた、「会社はそういうもの」と言う呪文は今の若手社員には通用しません。彼ら・彼女らの目の前にはいくらでも選択肢があるのですから、現状に満足できなければ、次を探すことになるのは当然です。

 

“安い給料”と書きましたが、私が若手社員だった頃は、好むと好まざるとに関わらず残業が多かったため、残業代を加えると、手取りの給料はそこそこの額になりました。私は決して“生活残業”はしていませんでしたが、それでも、今振り返ってみれば、あの残業代があったおかげで家計のやり繰りが出来ていた面もありました。

 

翻って、今の会社では基本的に残業は無しなので、私の頃に比べれば手取りの給料はかなり安いことが想像できます。そう考えると、若手社員にとって会社に求めるものは成長のチャンスと同じくらいに、現時点での自分の貢献度を正当に評価してくれることなのかもしれません。

 

人材争奪戦

少し前の話ですが、一部の企業で新卒採用の初任給を大幅に引き上げると言う新聞記事を読みました。初任給をアップさせると言うことは、従業員の賃金ベースを底上げすることになるはずなので、現在の業績や将来の見込みが堅調な企業ならいざ知らず、業績の芳しくない会社はそのような芸当は出来ません。

 

それでも、一つの会社に長く勤めようとする意識が希薄になりつつある中で、今後は、鼻先に魅力的な条件を掲げる会社に人材が引き寄せられるのは避けられません。自分の持っている潜在能力を高く買ってくれる会社に入りたいと思うのは自然なことです。

 

私の勤め先は今のところそのような大胆な決断をするような気配はありません。それはまだ新卒採用枠の定員を確保出来ているからであって、いずれ定員割れが起きるのは時間の問題です。他方、就職氷河期に採用を控えていた世代を対象とした中途採用は思うように進んでいません。待遇面での見劣りが原因との声も聞こえて来ます。それが事実だとするなら、競合する他社に勝てる条件を示せないのは致命的で、いくら将来の夢や希望を熱く語ったところで有能な人材は寄ってきません。

 

これまでの年功序列・終身雇用の下での賃金カーブは、若年層は薄く中高年層は厚く、となっていました。私の会社は正にその典型で、長く勤めなければ若い時の苦労の元を取ることが出来ません。それを甘受出来る社員が減ったことも転職者の増加に拍車をかけているのだと私は思っていますが、この状態が続けば、経営が成り立たなくなるほどに実働部隊が不足します。

 

自営業で、後継ぎがいないことを理由に廃業するケースはありますが、今後、少子化による働き手不足から人材争奪戦が激化し、採用不調と人材流出によって廃業や身売りをせざるを得ない会社も出て来るのかもしれません。

 

穴埋めのためのシルバー人材

その一方で、定年の更なる延長で社内のシルバー世代は増える傾向にありますが、この世代の活躍の場の確保もこれからの課題です。

 

私の勤め先に限って言えば、ある程度の役職を経験した社員は、嘱託として再雇用されても、再び下働きの役割に戻ることがなかなか難しいようです。本人が希望する役回りはこれまでの職務経験を活かせるスペシャリスト的なものですが、会社としては、若手・中堅社員の穴埋めを期待していて、双方の思惑にすれ違いが生じている場合が多いのです。

 

人材の補充が出来なければ世代交代も進まず、一人二役あるいは三役をこなさなければ仕事が回らず、疲弊した社員が増えれば会社全体のパフォーマンスは低下します。

 

有能な人材を獲得するには、会社が魅力的な将来像を示せること、競合他社に見劣りしない条件を提示できること、の二点は欠かせないのですが、残念ながら、私の勤め先にはどちらも欠けています。