和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

時間の余裕は心の余裕

奪われる時間

在宅勤務によって自分の時間が増えたと言う話は過去の記事で何度か触れましたが、それに加えて、担当している業務が自分のペースで進められるので、勤務時間全体に余裕が生まれました。

 

時間的にゆとりを持って仕事が出来る状態になったこともあり、私のところには担当外の臨時の仕事が下りて来ることが増えました。人手不足の部署の中でバッファー的な役回りをすることを私は厭いませんが、これはあくまでも急場凌ぎの手段であり、出来るだけ早くに欠員を補充して適正な人員配置に“戻す”べきだと思っています。ただ、そうは言っても、今の会社のどこにもそんな余裕はありません。

 

余裕が無いと言いながら、一般社員の残業時間は減少傾向にあります。本当に余裕が無いのは管理職の方です。とりわけ、若い管理職は登用された時からプレイングマネージャーであることを求められてきましたが、会社が一般社員の残業ゼロを目標に掲げている中、人材流出による人手不足に晒され、彼ら・彼女らは、そのしわ寄せを受け止める防波堤になっています。

 

そう遠くない将来、この状態が深刻な問題として顕在化するのは分かっているのですが、今の経営陣がどれだけ真面目に受け止めているか私には分かりません。

 

若い管理職は、一般社員の頃は自分や家族のために使える時間に困らなかったと思います。残業はほとんど無く、休日出勤など不要だったことでしょう。しかし、管理職になった途端に自由な時間が減ることになりました。週末を潰して仕事を片付けている者もいることでしょう。

 

私が若い頃の管理職は滅多に残業をすることなどありませんでした。自分の上司のそのような働きぶりを見ていて、当時の私は浅はかにも、“気楽な管理職”を羨ましいと思っていましたが、いざ自分が管理職になってみると、かえって忙しさが増す結果となりショックを受けました。

 

それでも私たちの世代がまだマシなのは、自由な時間の大切さを知らずに仕事を続けて来たことです。自分や家族を蔑ろにしないまでも、“仕事だから仕方ない”と言う諦観がすでに出来上がっていたのです。

 

これに対して、若い世代は自分や家族との時間を謳歌し、その大切さを知ってしまっています。彼ら・彼女らにとって、仕事のために割かれる時間が増えると言うことは、自分の時間を奪われることです。

 

奪われた時間に気がつかずに過ごして来た私たちの世代と、まさに目の前の時間が奪われつつある若い管理職とでは受け止め方が全く違うことは説明するまでも無いことだと思っていたのですが、どうやらそうでもなさそうでした。

 

時間の余裕は心の余裕

かつて私が属していたHR委員会で、私が管理職の業務過多の話を持ち出すと、決まって「仕事なのだから仕方ない」、「(忙しくなった分は)管理職手当でコンペしている」と言う声が出ましたが、「仕方ない」と言うのは議論を打ち切るためのセリフであって結論にはなり得ないものですし、管理職手当は職責に対しての危険手当のようなもので残業手当ではないのです。いずれにしても、そのような言い訳が若い管理職にいつまでも通用するはずはありません。「仕事だから仕方ない」は間違いなく通用しません。

 

私の世代のように、若い頃に残業や休日出勤、あるいは徹夜して仕事をこなしてきた経験のある管理職は、“耐性”が出来ています。会社のそのような状況を受け止める“態勢”も出来ています。もちろん、これは決して褒められたことでは無く、下の世代に真似をしろと言っているわけではありません。

 

私が懸念しているのは、若い管理職が仕事の負荷の高まりに果たして耐えられるかと言う点です。しかも、負荷の高まりは職責が重くなったからでは無く、人手不足を補うために自分の時間を犠牲にしているためなわけですから、管理能力とは別の次元の話です。人材の採用・補充が思い通りに進んでいない“ツケ”を回されたのでは、現場も堪ったものではありません。

 

少しくらい給料が上がったからと言って、自分のライフスタイルを変えることを受け入れられる若い世代はどのくらいいるのでしょうか。ただでさえ管理職昇格を忌避する社員が増える傾向にあるのです。それは、会社が管理職のロールモデルとする働き方と、若い世代の理想とする働き方との間に埋められない溝があるためです。

 

若い管理職の中には、古い世代のような働き方を受け入れている者もいるでしょう。しかし、多くは自分や家族のための時間を削られることを甘んじて受け入れることはない思います。

 

私は、自分や家族のための時間を確保できたことで、精神的な余裕を取り戻しました。もし、もう一度管理職をやれと言われたら、私は断ります。私にとってはそれほどに時間のゆとり、そしてそこから得られる心のゆとりが無くてはならないものになってしまったのです。

 

そう考えると、若い管理職が役職を下りることを申し出る、あるいは、転職によって時間のゆとりを取り戻そうとするのは自然なことです。

 

会社にとって、人材流出はすでに深刻な問題なのですが、次に待ち受ける深刻な問題は、若手管理職の社外流出に拍車がかかることのような気がします。