和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

休みたい時に休むこと

目標は有休未消化ゼロ

間もなく夏休みシーズンとなりますが、私の勤め先は全社的な夏季休暇が無いので、各自が有給休暇を消化して夏休みを取ることになります。

 

今の部署では、私が部長職の時から部員には予め年間の休暇スケジュールを立ててもらって有休未消化とならないように努めてきました。

 

当初、部内では私の提案に難色を示す部員の方が多く、その理由としては、忙しくて休暇の予定が立てられないこと、有休は万が一のために取っておきたいことが多く聞かれました。

 

急病になった時のために有休を温存しておきたいと言うのは分からないでもありません。他方、社員が有休を消化すると仕事が回らないのだとしたら、それは社員の責任では無く適切な人員配置をしていない会社の責任です。本当に“休みたくても休めない”状況なら、私に申し出るように各部員に伝えました。

 

突発的な仕事が降って来る可能性は否定出来ませんでしたが、それでも、月次や四半期、年度のルーティンワークは決まっているので、各自の担当業務に応じて休めるタイミングは分かるはずです。また、子どもの学校行事や家族のイベントも休暇予定を決める目安になります。あとで変更するのは構わないからと、各部員に休暇の予定を考えるよう重ねて頼みました。

 

私は若手社員が飛びついて賛同してくれることを期待していたのですが、あまり良い反応が返ってきませんでした。

 

これは後から聞かされた話でしたが、当時入社二年目の女性社員は先輩社員から愚痴を聞かされたと言いました。

 

休暇願を上司に提出すると決まって、「仕事の方は大丈夫なのか」と聞かれる。もちろん、業務に支障が無いから休みを取るのですが、それを上司に説明するのが億劫になります。せっかく休みを取っても、上司からメールだけは確認するように言われると休んだ気がしない。結局、休暇を取得することが煩わしく感じてしまう - それに加えて、女性社員は、上司や同僚が休みをなかなか取らない中で、一番下っ端の自分が休暇を申請することを躊躇してしまうと言いました。

 

休養も仕事のうち

「休養も仕事のうち」とは、私が出向していた会社の上司から折に触れ何度も聞かされた言葉でした。一年分の休暇スケジュールを立てるのも駐在中の経験を基にしたアイデアだったのですが、私はそれ以前の問題 – 休暇を取りやすい雰囲気作り – に考えが及びませんでした。

 

上の人間が率先して休みを取る。言うは易し行なうは難し。恐らくあの頃の私は、部下の課長二人にとって、そして隣りの部の部長にとって目障りな存在だったはずです。“部の残業ゼロ”を言い出したかと思えば、今度は“有休未消化ゼロ”を言い始めたのですから、駐在かぶれの空気の読めない人間でした。

 

理想と現実のギャップは簡単には埋められませんが、私のやろうとしていたことも例外ではありませんでした。残業ゼロは達成出来たものの、急な仕事が回ってくると私や課長は週末に出社して対応し、休暇願の取り下げもしました。業務の効率化のお陰で隣の部の仕事を回されたりもしました。

 

業務の効率化は私が部長職を下りるまで、課長二人と何度も議論し続けました。隣の部署からこれ以上仕事を回されないように抵抗もしました。

 

有休の積極的消化を打ち出した一年後の成果は“及第点”のレベルでしたが、私を含め管理職の有休完全消化は相成りませんでした。ただ、それまで部内に漂っていた休みづらい雰囲気や“仕事こそ美”のような同調圧力は薄らいだと思いました。

 

休みたい時に休む

人手不足と効率化のジレンマによって、休みやすい環境を維持するためのハードルは上がる一方ですが、それでも部員には何とか仕事の合間を縫って極力有休を消化してもらうようにしました。「今まで休んだことも無いのに結婚記念日に休暇を取るのは照れ臭い」と言っていた課長は、来年も休んで欲しいと奥さんに言われたそうです。小学生の子どもを持つ部員は、授業参観に初めて夫婦で参加出来たと喜びました。

 

自分の有給休暇なのだから、上司がわざわざお膳立てする必要は無い。部下のご機嫌取りをしてどうする。馬鹿も休み休み言え - 当時の私の上司はそう吐き捨てました。確かに、有休は従業員の権利ですが、行使する側の気後れや職場の空気がそれを邪魔しているのであれば、環境を改善するのは会社の義務だと思います。それが理解出来ない役員と私は議論するつもりはありませんでした。

 

三年ほど前から、会社は従業員に年五日の有給休暇を取得させることが法令で義務付けられました。人事部は管理職に対して、それぞれの部下が年に最低五日の有休を消化できるよう業務スケジュールを立てることを要請しました。併せて、飛び石連休の中日の休暇取得や夏季休暇、年末年始休暇の取得を社員に促しました。

 

それによって、全社的に有休消化率は上がったようです。社員の仕事が急に暇になったわけではありません。休暇を取得したいと思っていた社員が気兼ね無く休めるようになっただけなのです。

 

有休取得の権利はあっても使うことがままならなければ、仕事から逃れられない、あるいは会社に拘束されている感覚を払拭出来ません。休みたい時に休むことが出来て初めて権利行使の環境が整ったと言えるのだと思います。

 

こんなに簡単に社員が休みを取りやすい環境に変えられたのなら、なぜ会社は法令で義務化される前からそうしなかったのか – 答えられる経営陣はいないでしょう。