和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

休業制度と穴埋め

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風当たり

来月の下旬から産休・育休に入る部員がいるのですが、補充要員が確保出来ず、このままだと残りの部員で彼女の穴を埋めることになりそうです。

 

彼女の“おめでた”が分かった昨秋、最初に相談を持ち掛けられたのは私でした。二年前、まだ私が部長だった頃に彼女は流産を経験しています。長い不妊治療の後の吉報、そして残念な知らせ。それは私以下、今いる部員のほとんどが知っている話でした。

 

その時彼女の妊娠にあまり良い顔をしなかったのが直属の上司の課長。彼はまだ同じポジションにいます。課長としては人繰りに頭を悩ませている最中に戦力が減り、悩みがさらに増えることに苛立ちを感じていたのだと思います。

 

もちろん、すぐに補充要員を見つけられなかった私の責任なのですが、どこの部署も人手不足が顕著で、人事部はそれぞれの部で凌ぐように繰り返すだけでした。

 

ただ、当時、課長はともかく、他の部員は協力的でした。だれもが慢性的な人手不足への不満は抱いていたのですが、それと彼女の産休・育休は別の話。世帯者も単身者も彼女が職場復帰するまで、たとえ戦力の補充が無くても何とかすると快く答えてくれました。そして、今回も部員の面々は彼女を祝福してくれています。

 

もっと昔、私がまだ別の部署の課長職だった頃に、部下が育休・産休の申し出をしたことがありましたが、その部署の所謂“お局”社員を中心とした彼女に対する“当たり”が強く、私のいないところで彼女は同僚から“給料泥棒”、“迷惑”と罵られたようです。

 

私は課の全員を集めて話をしました。当時の課員全員、産休・育休の制度を良く理解していませんでした。休業中にも会社が給料を支払い続けているものと誤解していたようで(休業中は給料が支払われない代わりに雇用保険からの給付金が支給されます)、それが彼女への風当たりの発端だったのですが、良く調べもせずに無責任な人間に迎合してしまうのは何とも情けない話です。

 

それはともかく、会社の制度として産休・育休や介護休業の制度を掲げるからには、社員がそれらの制度を利用できるよう環境を整えるのは一義的には会社の義務です。それは、社員ひとりひとりが制度の意義や仕組みをよく理解するための啓蒙活動や休業制度を利用しやすい雰囲気作りも含まれます。

 

休業制度を支える穴埋め

それにしても、部の中で誰かが抜けた時に欠員を補充出来ない事態は危機的状況だと思うのですが、会社がそれを改善しようとする動きは、残念ながら今のところ見られません。

 

理由の一つは、ひとり欠けても仕事が回るためなのだと思います。以前の記事でも触れた通り、4月の組織改編では、私たちの部署はこれまで欠員が数名いたのですが、これが“無いこと”にされてしまいました。私が口を出すよりも前に、中堅社員の中に課長や部長に食って掛かる者が出ました。

lambamirstan.hatenablog.com

 

上の人間が、仕事の出来映えにしか関心が無ければ、それが余力をもって仕上げた結果なのか、ギリギリのところで何とか間に合わせたものなのかに注意が及びません。

 

以前、業務の効率化を促進させるために、仕事の棚卸しと手順書の見直しを部下に行なってもらったことがあります。それは、部員の入れ替えがあっても仕事の“質”を落とさないために、業務を極限までシステマティックにするためでしたが、欠員が補充されないことが常態化してしまうと、せっかく作り上げた分業体制が崩れ、元の属人的な仕事の進め方に戻ってしまうのです。

 

能力があって音を上げない部下がいるうちは、仕事は回ります。仕事が回っているうちは、上の人間はそれが危ない綱渡りなのだと気づかぬまま放置を続けます。頼りにしていた部下が戦線を離脱して初めて事態の深刻さを知ることになるのでしょう。

 

そうならないためには、 - 欠員の補充が叶わないのであれば - 仕事の量と質を落とす以外無いのですが、上の人間は「上手く回っているのになぜ手抜きをしなければならないのか」と、現場と噛み合わない疑問しか持てないようです。

 

育児や介護のための休業制度は、仕事を続けながらライフステージの一時を家族のことに専念できるようにするためのものです。ワークライフバランスを体現するためには欠かせない仕組みなのですが、職場の上司や同僚の協力も同じく欠かすことが出来ません。

 

私が昨年、2か月間の介護休業を取った時は、半年前から根回しを行なってきました。役職を下りることを当時の上司に納得してもらい、人事部には私の後任を探すように頼み、課長ふたりにも状況を説明するなど、周囲の理解を得るために思いの他時間と労力を費やしました。上司から「休んで何するの?」と想像力の欠片も無いことを言われた時には腰が砕けそうになりましたが、あのくらいの年代では、男性が介護や育児や家事に勤しむために仕事を休むことを理解しろと言うのが無理なのかもしれません。

 

冒頭に紹介した彼女は無事に安定期に入り、産休に入るまでの残り1か月、同僚への引継ぎに余念がありません。そして彼女は7月に母親になります。