和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

理想の老後 (1)

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先送りできない問題

私は過去の記事で度々老後生活の話題に触れてきましたが、老後のための準備はどんなに考えても「これで安心」とはなりません。自分は何歳まで健康でいられるのか、十分な蓄えはあるのか。

 

キャッシュフロー表では百歳まで暮らせる計算になっていても、それは所詮画餅に過ぎません。まさか日本がジンバブエベネズエラのようなハイパーインフレになるとは想像できなくても、「絶対無い」とは誰も保証してくれません。

 

健康診断の結果に異常が無くても、それは長寿の保証にはなりません。体に良いことを全て取り入れたとしても、自分の寿命を操ることは出来ません。

 

結局はリスクフリーの人生など無い、と言う結論になるのですが、それでも、自分の老後を「たぶん、大丈夫だろう」くらいのものにはしたいと思っています。

 

私が自分の老後のことを考え始めたのは、結婚し、妻と将来の資金計画を立てたのがきっかけでしたが、より切実な問題として意識するようになったのは、両親の老後問題に関わってからです。

 

若い時には、自分の老後生活のイメージなど頭に思い描くことなど出来ませんでしたが、老親の生活を息子の立場から見たり、知り合いからの話を聞いたりすると、真面目に働いて定年を迎えさえすれば、豊かな老後生活を迎えられる、と言うわけでは無いことが分かるようになって来ました。

 

理想の老後生活のために必要な準備に関して言えば、お金、健康、生きがい - 大きく分けるとその三つが妻と私にとっての課題です。

 

若い方々にとって老後は遠い先の話のように感じられるでしょうが、あっけないほど早く老後は目の前に近づいてきます。そして、それは先送りできない問題です。

 

老後問題は、今現在、お金や健康の不安を抱えていない人にとっては他人事かもしれません。私は幸か不幸か、両親の退職後の生活ぶりを見て来たため、妻と私の老後について、真面目に考える機会を得ることが出来たのだと思います。

 

自足的な生活

私の両親が隠居生活の場に選んだのは、当時賑わっていた観光地でした。何度か旅行で訪れたこともあり、温暖な気候は老後生活を送るには打って付けだと考えたのでしょう。父親は廃業し、それまで住んでいた家を売却して手に入れた資金で、この観光地に終の棲家を建て、残りのお金を老後資金に充てることにしました。

 

結局、夫婦水入らずの悠々自適な老後生活は、父の死によって6年で終わってしまいましたが、それによって状況は一変しました。

 

車が無ければ生活できない地で、車を運転出来ない母親が取り残されてしまったのです。その時点で、母親のリウマチは進行していて、独りで外出するのもままならない状態でした。

 

風光明媚な観光地は、たまに訪れる分には素敵な旅行先ですが、年寄りが生活するには決して最適な場所ではありません。

 

さらに悪いことに、両親は老後資金の大半を使い果たしていました。事業が傾いた挙句のリタイアでしたが、生活レベルを下げることが出来なかった結果、貯蓄の取り崩しを止められなかったのです。

 

私は母に家を引き払って東京に戻るよう説きましたが、母は父との想い出の家を離れたくないと頑なな態度を崩しませんでした。それに対して私は母に、お金の援助はしないことと、年金の範囲内で暮らせる生活に改めるように言いました。

 

妻には“鬼息子”と罵られたものの、親への援助が自分たちの今の生活や将来の予定を脅かすことは避けたかったのです。それでも、その後数年は母への仕送りをしていました。母が生活レベルを下げるにはそれなりの時間を要したのです。

 

私の母は現在、年金の範囲内で生活できるようになりましたが、それは、私の忠告を受け止め、生活レベルを下げる努力をしたことと借金がなかったことが幸いしました。さもなければ、私が金銭的な負担を被ることもあったわけです。

 

老親の生活を見て、私は自分が年老いた後に娘たちに迷惑をかけるようなことはしたくないと思いました。それが老後のための準備を一層真剣に考えるきっかけを与えてくれました。

 

老後資金の準備については過去に何度か記事を書きましたので重複は避けます。しかし、覚えておかなければならないのは、入ってくるお金は保証されないと言うことです。リストラや勤め先の倒産などの想定外の困難を、自分とは無関係などとは言い切れません。

 

他方、自分の生活レベルは自分でコントロール出来ます。老後を見据えた生活レベルの最適化と慣熟は、早く始めればそれだけストレスが少なく済みます。逆に、一旦上がった生活レベルを後になってからダウンサイジングするのは、苦痛を伴うものになってしまいます。

 

私の父は自営業でしたが、かつての羽振りの良い時期の生活レベルを忘れられずに、老後資金を早くに消尽してしまいました。妻と私はそれを反面教師として、給料は上がっても生活スタイルは変えないことを心がけてきました。

 

それでも、老後の自足的生活が約束されたわけではありません。受け取る年金の範囲内で日々の生活を送り、たまに羽を伸ばしたい時に限り貯蓄を取り崩す、と言うのが理想ですが、そう都合良く物事が進むかは分かりません。しかし、理想に近づけるためにも、若い頃からの生活レベル、生活スタイルの維持は大切なのだと考えています。(続く)