和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

親と子の結婚考 (1)

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女子トークと男の居場所

女三人、男一人の我が家においては、普段、男の前では触れないであろう話題でもお構いなしに飛び交います。時に私は彼女たちに気を遣って、少し離れたところに居場所を移したりしますが、女子たちの会話は、私の存在を気にせず進められます。彼女たちは、たまに思い出したかのように私に意見を求めてきますが、それは、話について行けずにリビングルームの端にいる私に対しての心ばかりの気遣いであって、本当に私の意見が欲しいわけではありません。

 

そんな女子トークですが、ここ1年あまりは、コロナ禍で外出を控えていることと妻の闘病が重なったことから、以前よりも頻度が高まり、その分、私がリビングルームの置物と化している時間も増えることになりました。

 

元来、家にじっとしていられない妻としては、体が思うようにならない今、娘たちとの会話は唯一と言っていい息抜きの時間です。二人の娘もそれを知っていて、できるだけ妻との話に時間を割いてくれているようです。

 

女子三人の会話は、そのほとんどが他愛も無い内容なのですが、そんな中、私にとって気後れしてしまう話題は、娘たちの“恋バナ”です。「男親の前でする話か?」と思いつつも、つい聞き耳を立ててしまうのは、娘たちのことを心配する親心があるからなのでしょう。

 

娘の恋バナ

先日は、下の娘が、妻と上の娘に恋愛相談をすると言う“設定”でした。話を聞いていると、どうやら娘は同じ学年で付き合っている男子がいる模様。私にとっては“衝撃の”初耳ですが、妻と上の娘はすでにそのことを知っている様子で話が進みます。私としては、それだけで心穏やかではないのですが、話に割り込むような野暮なことはしません。

 

私の頭の中で話をまとめると、娘は彼氏から、今から1年半後、大学を卒業したら結婚したいと言われ、どう返事するかを相談。妻はお互いに仕事に慣れて、経済的に自立できてから結婚を考えれば良いのではないかとの意見。上の娘は、気の強い下の娘にプロポーズするような奇特な男性を信じられないと言いつつ、二度と無いチャンスだと言う意見。

 

下の娘は、年長の女子たちの話を黙って聞き終えると、「たぶん、いつか離婚すると思うから結婚はしない」と一言。ここで、ひと昔前のシットコムなら、話を聞かされた家族全員、椅子から転げ落ちるところです。

 

娘は、誰にも迎合せず我が道を行く性格から、今まで周囲の人間とぶつかってきたことや、交際相手と衝突した時に、自分の意見を曲げることは想像できないなど、自らの性格を考え、「どうせ離婚するなら結婚はしない」との結論に達したようです。

 

上の娘は「じゃあ、相談する意味無いでしょ」と、大袈裟に呆れたポーズをとって、相手をしていられないと席を立ってしまいました。私としては、自分が鼻白む話題が去って、ほっとした気持ちと、娘の非婚宣言に小さじ一杯の淋しさを感じた夜でした。

 

 

ところが、その夜は、それでは終わらず、妻が娘に諭すように話を続けました。持って生まれた性格を変えるのは難しいけれど、相手の意見に耳を傾けることは大切なこと。これからどんな人と出逢うか分からないのに、若いうちから結婚しないと宣言する必要は無いこと。一旦自分で決めたことは変えられない – そんな娘の性格からすると、将来良い相手が現れても、結婚しないことに拘泥してしまうのではないかと心配になってしまうこと。

 

そんな妻の長話を聞きつつ、私はぼんやりと、もし、今の時代に20代の妻と私が知り合ったら、どうしていただろうかと想像してみました。やはり結婚はするのでしょう。なぜなら、私たちは単純に好いた惚れただけで結婚したのですから。

 

結婚観や家族観が変わっていく中でも、誰かを慕ったり好きになったりする感情は普遍的なのではないかと、私は年甲斐も無くそう信じています。将来を一緒に歩みたいと思える相手に抱く感情は、収入や財産の多寡、職業や容姿 - そのような条件付きでは無い相手への思いなのだと考えます。

 

今でも、妻が初めて私の預金通帳を見た時に上げた悲鳴を忘れません。結婚しようとする相手の預金残高が100円を切っているのですから叫びたくもなります。

 

それでも、妻が私と結婚してくれたのは、私にプライスレスな魅力があったから、などと言うことは10000%あり得ず、単に相手の貯蓄額が結婚の可否判断の材料では無かっただけの話です。

 

もう一つの仮定として、私たちがあと10年あるいはあと5年出逢うのが遅かったら、より現実的な見方で結婚を考えたのかもしれません。もっと言うと、付き合おうと思った最初から潜在的な配偶者として相手を見て、“条件付きでは無い思い” と損得勘定との葛藤にかられることになったかもしれません。

 

妻と私は、大人の知恵 - 損得勘定 – がつく前に付き合い始め、後先を考えずに一緒になってしまいました。そして、浅慮ゆえの結婚は苦労の連続でした。私は、娘たちには苦労はさせたくないと言う気持ちと、自分たちの時を振り返って、自分の子であろうと、結婚観に口を挟むのは控えるべきと言う思いを感じながら、妻と娘の会話を聞いていました。(続)