和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

伸びきったゴムは戻らない

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オフの時間を作る

考えや気持ちの揺らぎと言うものは、止めることが出来ず、何度も同じところを行ったり来たり、あるいは堂々巡りを繰り返すことがあります。それは数日おきのこともあれば、一日のうちに何度も、と言うことさえあります。

 

片付いていない仕事や、自分の中で解決出来ていないことは、一旦は頭の片隅に追いやることが出来ても、自分の意思に関わらず不意に意識の真ん中に戻って来ます。

 

以前の私は、オフの時間をゆっくり過ごしたいと思っていても、頭の中の回路が言うことを聞いてくれませんでした。平日、休日問わず、仕事の段取りのことが頭から離れなかった時期が長く続きました。次の会議での説明の要旨を頭の中で繰り返し確認したり話し方を考えたり、部下から持ち掛けられた相談の対応を考えたりと、考えること尽くしで気が休まりませんでした。

 

休みの日くらいぼーっとしていたいと思っていても、次から次へと頭の中に仕事のことが浮かんでくると、落ち着いてぼーっとしていることも出来ません。半ば習慣化していた社用メールの確認も、リラックスを妨げる原因でした。

 

結局、私の場合は、仕事のことを頭から取り除くことが出来なかったので、いつしか、家の隅々まで掃除をしたり、包丁を研いだりと、別のことに神経を集中させることで仕事のことを忘れようと努めました。妻も娘たちもそんな私の心の中は知らず、掃除好きな父親だと勘違いしていることでしょう。

 

何か別のことに集中して気を紛らわそうとしたところで、頭の芯の部分での緊張感が解かれることはありません。ゴム紐がピンと張り詰めている感じが続き、心身を充電させることができずに翌週迎えます。疲れが抜けないのは当然です。

 

私は、ついこの前まで、体から抜けない疲れは老化が原因だと勝手に解釈して諦めていました。ところが、管理職から下り、週末を完全にオフの時間にすることで気持ちが軽くなり、良い睡眠が取れるようになったことから、ようやく疲労の原因が老化だけでは無いのだと理解しました。

 

今、私は担当する業務にだけ集中出来るようになりました。仕事に対するモヤモヤ感を完全に払拭することは出来ないものの、週末は以前とは比べ物にならないほど、リラックスした時間になりました。

 

頑張り過ぎては壊れてしまう

私が介護休業から職場復帰したのと同じタイミングで、病気療養から復帰した若手社員がいました。彼はうつ症状と診断され、3月から仕事を休んでいました。症状の改善が見られなければ、病気休職の選択肢もあったのですが、幸い、症状が改善したことから、今月初めから職場に戻ることが出来たのです。

 

ところが、先週末に別の部員から、彼が再び休むことになったと言う話を聞かされました。私の口からため息が漏れました。

 

今月初めに出社した際に、彼の姿を見かけた私は、病気からの復帰直後に監督者不在で仕事をやらせるのは良くないと思い、彼の上役に忠告はしたものの、その後のことは全くフォローしていませんでした。もちろん、私は最早部員の管理をする立場には無いので、フォローするなど出しゃばりだと思われるかもしれません。しかし、リスクは芽が出る前に誰かが摘んでしまうに越したことは無いのです。

 

在宅勤務が続く中、彼と上役はリモートでの打ち合わせに終始し、これまでの間、直接顔を合わせることも無かったようです。そうなれば、彼の仕事振りを直接観察する機会も無く、画面の中の表情と声音でコンディションを推し量るしかありません。

 

彼としても、職場復帰早々に上役に対して不調を訴えることは難しかったのではないかと推察します。今回、彼の奥さんが、起床した彼がうつろな表情のまま寝床に座っている様子に異常を感じたことから、彼の状態が再び悪化したことが分かったようです。彼が今後どうなるかは、現時点では分かりませんが、短期間での職場復帰は困難だと思います。

 

仕事の負荷は労働時間だけでは測ることは出来ません。達成度や結果に対する上役からの過剰な期待や本人の余計な気負いなど、様々なことがプレッシャーになります。

 

発病する前よりも仕事を減らしたのだから大丈夫・・・では無いのかもしれません。長期間仕事を休んでいた本人としては、仕事に穴を空けてしまったことを挽回しようと心が急いていたことも考えられます。

 

心も体も、頑張り過ぎて壊してしまっては、元も子もありません。

 

仕事をする環境は健全か

実は、私に彼のことを教えてくれた部員は、そのことを報告するためだけに私に連絡してきたわけではありませんでした。

 

つい先日、隣の部署でもうつ状態となって中堅社員が休みに入ったことから、私が教育担当を任されている若手社員を件の部署と兼務させたい、と言うのが主旨だったのです。

 

課長職の人間が私に話を持ち掛けてくると言うことは、外部からの欠員補充は不可であることを人事部にも確認済みのはず。私はわざわざ不毛な質問をするつもりはありませんでした。

 

今私と一緒に仕事をしている若手社員は手際良く、どんな仕事を任せてもそつなくこなしてくれるでしょう。しかし、そこには問題がありました。部内で欠員が出た時に現有人員で仕事を吸収してしまうと、人事部はそれを“適正人員数”だと考えること。すなわち、今後欠員の補充が叶わず、ひとりひとりの負荷が増える状態が恒常的になってしまうと言うことです。

 

もう一つは、彼が転職活動中だと言うこと。これは、彼と私以外誰も知らないことです。転職活動が上手く進めば、数か月後にいなくなってしまうかもしれない人間に、仕事を兼務させるのは避けたいところです。

 

私は「考えてみる」と気の無い返事をしました。兼務の話は、彼の転職活動とは切り離して進めざるを得ないにしても、同じ本部の部員が2人もメンタルの不調で休むのは、個人のパーソナリティでは説明がつかない気がしています。仕事を進める環境や上司と部下との関わり合いを再考せずに、対処療法を繰り返していては、問題の根が深くなる一方なのではないかと気になっています。