和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

不安な回遊魚

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来年の桜まで

朝の散歩は、私にとって季節のうつろいを感じるための日課です。

 

在宅勤務開始以来、朝、小一時間ほど散策します。雨が降っていたら散歩はキャンセル。ルートはその日の気分で決めます。昨年の今頃は妻と一緒に朝の散歩を楽しんでいましたが、今は私一人か、たまに娘たちが付き合ってくれます。妻の体調が良い日は外に連れ出しますが、あまり長い距離は歩けないので、近所のコンビニまでの往復になることがほとんどです。

 

家の近くに総合病院があるのですが、その前の通りが立派な桜並木になっています。固いつぼみを見上げながら開花を待つ間は時間が長く感じられますが、いざつぼみが綻び始めると葉桜になるまではあっという間に過ぎてしまいます。しかし、毎日の日課のお陰で昨年も、そしてきっと今年も、一番の見頃を逃さずに済みます。

 

そんな桜並木の様子を写真に収めて妻に見せようとしたところ、断られてしまいました。来年の春に直接見に行きたい、写真では無く、自分の足で桜のトンネルをくぐりたいのだと言います。

 

今月末に手術を控えている割に、妻は普段と変わらない様子です。それと無く、不安に思っていないか聞くと、体にメスを入れるのは初めてでは無いから平気だとのこと。確かに、上の娘がお腹にいる時に卵巣嚢腫の摘出手術を受け、その後、帝王切開での出産も経験しています。妻にとっては手術に対する恐怖心みたいなものは無いのでしょう。

 

それよりも、妻は、病院への家族の見舞いが禁じられていることに不満を感じていました。手術当日も、家族から1名のみ待合が許可され、着替えや差し入れも専用のカウンターでの引き渡しとなるようで、入院から退院までの間は、携帯電話での短時間の会話くらいしかできないようです。もっとも、今のご時世、こればかりは仕方ありません。退院してきたら存分に話を聞いてあげようと思っています。

 

動かせない駒

妻の看病に専念したいこともあり、私が第一線から降りたいと上司に伝えたのは、すでに半年前のことでした。しかし、未だに私の後任が着任しないのは、新型コロナの影響で人員配置がしづらくなっているためです。海外から社員を戻したくても、後任候補がビザの申請すらできないとなると、人を動かしたくても動かせません。

 

一向に話が進まないようなので、私は上司の - 正確には元上司ですが - 本部長に2人いる課長のどちらかに部長代行を任せるよう進言しました。ところが、彼らは資格等級の関係から、部長代行はできないことになっているとの弁。こちらはそれを承知で、人事部と掛け合ってくれと言う意味で進言したのですが、全く話が噛み合いません。

 

私は妻が退院した後の2か月~3か月、介護休業に入ることを伝えてあります。このまま何も動かなければ、本部長が部長を兼務する以外ありませんが、仕事が増えるのでそれは嫌だと言います。挙句の果てには。私に、妻の姉兄に介護を手伝ってもらえないのかと聞いてくる始末。今に始まったことではありませんが、本部長と私の“感覚のずれ”は直しようがないことを改めて知りました。

 

私が申し訳なく感じているのは、2人の課長が安心して仕事に専念できる環境を整えてあげられないことです。仕事自体の引継ぎは滞り無く済んでいるのですが、全ての判断について本部長に伺いを立てるとなると厄介であることは容易に想像できます。今は大きな案件が動いていないので表面上は何の問題も無く見えますが、これからどうなるかは、誰にも分かりません。

 

不安な回遊魚

もう一つ、部内の業務で心残りなのは、新しい事業の種蒔きが滞っていることです。昨年1年間は、その前年からの仕掛中の案件を進めていたので、持て余すような暇は無く、むしろ意外なほど忙しい一年でした。

 

しかし、年明けすぐにそれらが全て片付いてしまうと、ぱたりと部内の動きが止まりました。実は同じような状況が別の部署でも起こっています。ある部署では、部員が暇にならないよう、投資銀行潜在的パートナーとの面談を積極的に行なうようにしているそうですが、話を聞くと、ひと月あたりの面談回数がノルマだと言います。

 

たしかに、銀行や証券会社などからの案件紹介もあるので、情報筋との面談は必要であることは間違いないのですが、面談回数をノルマにしてもあまり意味がありません。市場環境から無闇に動いても目ぼしい成果が期待できないと判断したなら、その間は充電期間と割り切るのも考え方です。

 

昨年、最初の緊急事態宣言が解除された頃だったでしょうか、若手社員の育成に関してのワークショップがありました。そこで、ある管理職が言いました。「若い奴の不安を解消するためには、仕事を与え続けなければならない」。私は、今の若い人たちはそんなに無垢で無知ではないと反論しました。

 

この状況に多かれ少なかれ不安を抱いているのは皆同じなのでしょうが、若手や中堅社員よりも、ベテランと呼ばれる世代の方がより不安を感じているのではないかと思いました。

 

大した用事が無いのに出社してきているのも、不要な仕事に嬉々として取り組むのも、在宅勤務で残業しているのも、ほとんどがベテラン社員です。泳ぐことを止められない回遊魚のように、あたかも仕事を取り上げられたら死んでしまうような、そんな気すらします。

 

私の部署では、私が部長を退く前から、部員には年度末までに順次有給休暇を消化するように伝えてあります。繁忙期は予期せずやって来ることがあります。休める時に休むのも仕事のうちです。