和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

薄っぺらなアドバイス

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何でもアドバイスできる人

「困ったことがあったら相談に乗るよ」と気軽に言う人がいますが、あらゆる相談事に的確なアドバイスを行なえる人は存在しません。テレビや新聞などで扱っている人生相談では、悩みを抱える相談者に著名人がもっともらしい忠告を行なっていますが、そのとおりに物事が進めば苦労はありません。相談者がその後どうなったか追跡した結果が分からないので、果たして、アドバイスが本当に的確なものだったかは相談者以外誰も知らないのです。結果に対する責任を取る必要が無いからこそ、安易にアドバイスができるのではないでしょうか。

 

作家や心理学者と言う権威付けされた人が、どれほどの人生経験を踏んできたかはともかく、自分が経験したことも無い出来事について他人に忠告することほど無責任なものはありません。忠告は出来るかもしれませんが、それは、アドバイスをする側の脳内での仮想体験が基になっているだけなので、実社会で通用するかどうかは保証されません。

 

私も、部下に対して、困ったことがあったら相談するように言うことがありますが、相談に乗れる範囲はあくまでも私の経験を踏まえてのことで、それ以外のことについては、いくら部下からの相談とは言え、安請け合いしたことはありません。

 

自分が相談に乗れない話の場合は、部下と一緒に頭を抱えて悩むことにしています。部下からしてみれば、何とも頼りにならない上司なのでしょうが、困って相談してきた者に対して、薄っぺらな新書の受け売りのようなアドバイスをする方が余程失礼だと思っています。

 

もっとダメなのが、せっかく下の人間が相談しに行っているにも拘わらず、自分が何のアドバイスもできないとは言えないため、「もっと知恵を絞れ!」と部下を追い返してしまうケースです。

 

いずれにしても、アドバイスは経験に裏打ちされたもの、あるいは、様々な経験を踏まえて導き出されたものでなければ、従う価値の無いものだと私は考えます。

 

人の悩みを食い物にする者

「困った時の神頼み」と言う言葉がありますが、人は手を尽くしても抜け出せない苦境に追い込まれてしまうと、普通に考えれば、そんなことはあり得ないというものにまで縋ってしまいます。

 

自分の身に不幸なことが降りかかった人が、高価な壺を買わされたり信者に勧誘されたりすることなどは、よく聞く話です。不治の病だと宣告を受け、民間療法に最後の望みを託す人もいます。そのような人々は頼れるものが全て無くなり、藁をも掴む思いで、何の科学的根拠も無いものに飛びついてしまうのです。そして、それらはほとんどの場合、お金をむしり取られて終わるのです。

 

結果、人生が好転しなかったり病気が治らなかったりした時には、「信心が足りない」、「努力が足りない」と、全ての責任を負わされてしまいます。後になって、騙されたことに気がつくと、身内や親しい人間からは、「騙される方が悪い」などと非難されることもあります。

 

絶望の淵に立たされた人にとっては、同じような状況を潜り抜けてきた人の体験を聞くことが、本当は助けになるのかもしれません。少なくとも、絶望を経験してもいないのに知ったかぶりに忠告する者や、大枚を叩いて壺を買うよりは役に立つと思います。しかし、困った人のところには、それを食い物にする輩しか集まってこないのが現実なのです。

 

全てにポジティブになるのは無理

私が30代に差し掛かった頃の話なので、昔話と言った方が良いかもしれませんが、一時、会社の就業時間後に、若手や中堅社員が集まって、“自己啓発セミナー”の講師を呼んで勉強会を行なっていました。私はあまりその手のものには興味が無かったので参加はしませんでしたが、同年代の社員からかなりしつこく勧誘を受けました。

 

勧誘者の話を私なりに解釈すると、物事がうまく行くか否かは自身のマインドセット次第。ネガティブに考えればうまく行くはずのものも失敗に終わる。逆にポジティブ思考さえ持つことが出来れば、全てうまく行く。仕事も、恋愛も、家庭も。・・・ということのようでした。言っていることは全くの間違いでは無いでしょうが、セミナー代や教材費を払ってまで人から教えてもらうものでは無いと思い、私はセミナーへの参加を固辞し続けました。

 

その後、中堅社員の一人が休職となりました。物静かな学者タイプの社員でしたが、うつ症状により就業困難な状態となったようでした。さらにしばらくして、社内に通達が出されました。「就業時間外でも、会社施設内において社外講師を招いての勉強会を行う場合には、総務部を通すこと」と言った内容だったと記憶しています。

 

休職となった社員は、件のセミナーに参加していました。当時同じくセミナーに参加していた社員たちは一様に口が重く、彼が何故休職にまで追い込まれてしまったのかは知る術もありません。しかし、ポジティブ思考で全て解決すると言う話だけならまだしも、仕事上の行き詰りや、私生活での悩みが解決されない原因をポジティブ思考が無いからだ、などと言われたとすると、生真面目な人間は思い詰めてしまうのではないかと想像します。

 

世の中、全てが気の持ち様だけで上手く回ることはありません。どんなに健康に留意している人でも病気に罹ってしまうことだってあります。仕事にしても、どんなに頑張っても成果につながらないことがあります。成果につながらないことの方が多いのかもしれません。恋人との関係がうまく行かない時期だってあります。それらを全て自分の責任、自分がポジティブに物事を考えられないからだと、責めてしまう必要はありません。人生には、「頑張れ、もっと頑張れ」と自分を叱咤することと同じくらい休息も必要なのです。