心のガス抜き

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通勤地獄

数年前に海外駐在から帰国して以来、私は始発電車で出社することにしています。始発電車は人もまばらで、会社までの片道40分程度の時間を読書に充てています。

 

都心に向かう電車は通勤・通学の時間帯ともなると身動きも取れないくらいの混雑となります。以前はそれが当たり前だと思っていましたが、数年ぶりに帰国して改めて通勤地獄を体験してみると、年齢的にもとても苦痛で、出社までにへとへとになってしまう自分を感じました。

 

狭い車内はストレスが伝染します。肩が触れた、イヤホンからの音漏れがうるさいなど、些細な事がトラブルの原因になり、ときには電車遅延の元にもなります。もし、混みあった電車でも目的地が楽しい場所であれば、あれほどギスギスした空気にはならないと思います。ほとんどの乗客が苦痛を感じながら電車に揺られているのです。

 

ただでさえ仕事のストレスを抱えている中、職場に向かう途中でストレスを増やすことは避けたいものです。始発電車に乗るためにはかなり早起きしなければなりませんが、余計なストレスを避けるためにはそれも苦にはなりません。

 

人身事故に舌打ち

電車通勤をしていれば、様々な理由での電車の遅延に巻き込まれることもしばしばです。1分でも1秒でも早く目的地に着きたい時に電車が遅れたり運転見合わせになったりすると、ただでさえストレスが溜まっている車内のイライラ感は最高潮に達します。

 

電車が緊急停車し、人身事故で運転見合わせというアナウンスが流れると、車内で舌打ちする音やため息が聞こえてくることがあります。私としては何ともやりきれない気持ちになってしまいます。

 

鉄道の人身事故の全てがそうではありませんが、車内で事故の知らせを耳にすると、私の頭に真っ先に浮かぶのは飛び込み自殺です。恐らくそれは、若かりし日に私自身が死んでしまおうかと思ったことがあるからに他なりません。もちろん、私は自殺を試みたこともなく、単に頭の中でふとそのような考えがよぎっただけのことです。

 

私の場合は、徹夜続きで仕事の終わりも見えず、心身ともに疲労困憊の状態でした。徹夜明けで、ひとまず家に帰って着替えを取りに行く途中でした。乗換駅のプラットフォームに佇み、このまま消えてしまったらどんなに楽になるだろうと思ったところで、妻の顔が浮かび正気に戻りました。

 

精神的に参っている時には誰でも弱気になってしまうものです。健康問題、仕事の問題、家庭の問題。様々な問題を抱えながら私たちは生きていますが、自殺はそのような問題から逃げるための方法の一つであることは確かです。

 

ただ、服毒自殺や首つり自殺と比べると、飛び込み自殺というのは、極めて衝動的な行為ではないかと思うのです。飛び込み自殺をして電車を止めてしまうと、損害賠償など残された遺族の負担は大きなものになります。それを知らない人はいないはずです。それでも電車に飛び込んでしまうというのは、前後の見境の無い、正常な判断ができない状態に陥ってしまっていたのではないかと思うのです。私も、「消えて無くなりたい」という思いが頭に浮かんだ時は、普通ではない精神状態だったのだと思います。

 

そう考えると、飛び込み自殺という具体的なイメージを思い浮かべるところまではいかないまでも、ふと消え入りたいと考えてしまうことは誰の身にも起こりえるのではないか。人身事故で緊急停車した時、(それがもし、飛び込み自殺だったとするなら)電車を止めてしまった人がどんな思いだったのかと想像すると、胸が苦い気持ちで一杯になってしまうのです。

 

オンとオフ

もし、消えて無くなりたいと思う原因が仕事にあるのだとすれば、仕事を辞めてしまえばいい、と簡単に考えることができます。しかし、責任感が強い人やプライドの高い人ほど、仕事を投げ出すことで“敗者”になってしまうことを、人一倍気にします。

 

以前、別の記事で私の元部下の話を書きました。彼も人並外れて責任感の強い男でしたが、彼の場合は、その責任感の強さで日曜日の夜になると眠れなくなり、週明けの月曜日は午後からしか出社できないようになってしまいました。しかし、私はこれで良かったのだと思っています。重い体を無理して引き摺って変な気を起こすよりは、仕事を投げ出してしまう方が良いに決まっています。

 

仕事のストレスが原因で、人は様々な病気になります。私は若い時分、数回、円形脱毛症になりました。仕事の忙しさと上司との折り合いの悪さが原因であることは自分でも分かっていたので、症状が出た時には、数日休みを取って家でゆっくりしていました。「消えて無くなりたい」と思った時、その直後に後頭部に十円禿が見つかりました。

 

人によっては、その症状が、内臓の不調だったり、蕁麻疹だったり、聴覚の異常だったりします。そのように体の変調が外から分かる方が余程ましです。一番恐ろしいのは、外からは何の異常も認められない、本人すら自分の異常を感じられない状態です。限界まで我慢に我慢を重ねて、ある日突然、心と体のバランスを失ってしまうと取り返しのつかないことになってしまいます。

 

会社勤めを始めて間もない若手社員や、仕事の責任が重くなる中堅社員の中には、ストレスとの付き合いが苦手な者も少なからずいます。また、家事や育児といった仕事以外のストレスを抱える者もいます。

 

ストレスで潰されそうになったら休むに限るのですが、仕掛中の仕事を抱える生真面目な人は、自分から休暇を申し出ることができないことがままあります。私は自分の経験を踏まえて、そのような部下には半ば強制的に1週間単位で休暇を取らせるようにしています。仕事のオンとオフはとても重要です。貯まったストレスは定期的に“ガス抜き”する必要があるのです。