転職 自分の商品価値

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転職先の要望を理解すること

私の勤め先では、通年でキャリア採用を行っています。会社のウェブサイトからエントリーできるようになっていますが、ほとんどの応募はエージェントを通してのものになっています。

 

最近では、ウェブサイトからエントリーする応募者は数も減ってきている上、書類選考を通るだけの資質を備えた応募者はごくわずかになっているため、会社としてはエージェントに頼る傾向にあるようです。

 

エージェントに募集をかけると、会社側の書類選考の前にエージェントの方で“スクリーニング”を行ってくれるので、人事部としても無駄な手間が省けるというメリットがあります。その一方で、応募者が“名指し”で我が社への中途入社を希望するケースもあり、その場合は、エージェントから「せめて面接だけでも」という依頼がくることがあります。いい人材を紹介してくれたエージェントに対しては、こちらもあまり無碍に断ることもできません。そんな時に、ごくまれですが、私のような“元”人事部が駆り出されることがあります。

 

とは言え、応募者も数ある企業の中から我が社を指名してきてくれているわけですから、私が面接を担当する際にはおざなりな面接はしたくないので、事前にエージェントの担当者に応募者の様子を聞くことにしています。

 

元号が令和に変わる直前に面接した応募者の男性(“Aさん”としておきます)。エージェントから事前に渡されたキャリアシートを見ると、有名国立大卒業後7年の間に4社を渡り歩いています。それぞれの会社で3年も持たずに転職をしていました。また、本人は海外での仕事を希望しているようでしたが、今まで海外勤務の経験は無し。さらに、当社とは全く違う業界からの転職希望でした。

 

私がエージェントでも、これでは当社に推薦できる人材と判断することは難しいケースです。こちらの要望に合致している部分が全くありません。しかし、まずは本人に会って話を聞いてみることにしました。

 

空回りの面接

面接は、明日から超大型連休という日に行われました。月末の金曜日、プレミアムフライデーということもあり、その日の午後はオフィスは閑散としていました。面接は私のほか人事部の採用担当課長が対応しました。面接時に、志望理由や職歴など“お決まりの”質問は担当課長が行い、その後の補足質問は私に任されました。

 

Aさんは、今年30歳になったばかり。話し方や所作は問題無し。こちらからの質問にも要領よく答えており、第一印象は良好です。しかし、いざ志望理由を聞いてみると、とても曖昧で考え方の浅さが目立ちました。

 

経験のない新卒者は、仕事に対する具体的なイメージが無いため、“スケールの大きな仕事”、“社会に貢献できる仕事”など、夢見がちな表現に終始する嫌いがありますが、キャリア採用となると、そのような答えでは受け入れ側としては心許なく思ってしまいます。

 

少なくとも数年間会社勤めをしてきたからには、これまで自分が培ってきた経験やスキルを次の仕事でどのように活かしたいのか、具体的に示すことが必要となります。それがAさんにはできませんでした。

 

聞いてみると、これまでも「自分が本当にやりたいことではないと思って」とか、「自分に向いている仕事が他にあるのではないかと考えて」など、青臭い理由から転職を繰り返してきた模様。では、具体的に何がやりたいのか問うてみると、「もっと社会の役に立てるような仕事」に就きたいのだと述べるのでした。

 

見た目、やる気はありそうで、その表情はとても生き生きとしたものでしたが、面接をする側としては、Aさんの言葉は上滑りで何も響いてきません。

 

やる気だけでは通らない

私は、私の部の業務を掻い摘んで説明した上で、Aさんにこれまでの経験やスキルから何ができそうか尋ねました。これまで饒舌だった彼が初めて固まりました。

 

どんなにやる気があっても、これまでのキャリアが輝かしいものであっても、それだけでは役に立ちません。中途採用者に会社が期待するのは即戦力です。

 

特に異業種への転職を考えるに際しては、自分のスキルが“潰しの利く”ものなのかを能々考える必要があります。例えば、財務や会計は業種が異なったとしても、“食べていけそうな”職種です。他方、その業界ならではの特殊技術のノウハウを身に着けていても、別の業界ではせっかくのノウハウを活かす場が無いといったことも往々にしてあります。

 

まだ若いから、別の業界でチャレンジしてみようという気概は認めるにしても、30歳の“新入社員”を大歓迎する会社はまず存在しません。

 

自分の“売り”は何か

一通り面接は終わり、結果は追ってエージェントを通して伝えることをAさんに話しましたが、それを待つまでもなく、Aさんは自分が不採用だということを感じ取ったと思います。意気消沈するAさん、席を立つこともできません。応接室に重たい空気が流れます。

 

何となくこのまま終わるのも後味が悪いので、私からAさんにもう少し話をすることを提案しました。

 

これまで、Aさんは4つの会社を渡ってきていますが、法務、営業、企画、そして、現職で法務の仕事に戻っています。傍から見ると、行き当たりばったりに職種を転々としている感が否めず、面接時に話を聞いていても、何か一つのことを極めるでもなく、“飽きっぽさ”を感じてしまいました。そのことをAさんに率直に伝えると、彼もそのことは分かっていたようです。

 

現職に就いてからまだ3年足らずであれば、まだまだ学ぶことも多いでしょうし、今の仕事を続けながらもう少し専門性を高めて、それを自分の“売り”にできるようにすべきだと言いました。また、転職先を探す際に、何となく面白そうな仕事を探すのではなく、自分の“売り”を活かせる仕事をターゲットにすべきと言うことも伝えました。その辺りは、エージェントの担当者が相談に乗ってくれるはずです。

 

エレベーターホールでAさんを見送った後、人事部の採用担当課長から、サービスし過ぎだと苦笑されましたが、私としては、若い人の沈んだ顔を見て連休を迎えるのは気が引けたのでした。

 

これからの時代、転職が当たり前の世の中になることは間違いありません。それは、経験やスキルを武器に大きく飛躍するチャンスが広がることを意味します。これから就職を目指す人も、若手の会社員の人も、将来転職することも想定して自分の商品価値を高めて行ってもらいたいと思います。