自分の家を守ること

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同期会はしんみりと

私の会社の同期は20名そこそこです。その中で集まって酒を酌み交わす仲の人間は5~6名程度でしょうか。転勤や出向などで勤務先もばらばらなので、あまり頻繁とはいきませんが、それでも半年に1回くらいのペースで飲み会を開きます。

 

酒を酌み交わしながら一通り仕事の愚痴が終わると、所帯持ちは、教育費や家のローン返済で老後資金を蓄えるどころでないこと、独身者は婚活で女性から振られた数がついに大台に乗ったこと等々を面白おかしく披露して場を盛り上げます。しかし、宴会の最後になると少ししんみりとなって、定年まで同期会を続けることを誓ってお開きになります。

 

そんな同期の集まりで、全員の頭の中に浮かんでいるはずなのに決して触れない話題があります。

 

家族思いと言う名の罠

Aは寡黙な男で、気の利いた冗談一つ言うようなタイプではありませんでしたが、女性陣からの人気が高かったので、若い頃は同期の集まりに必ず声がかかりました。そんなAは、当時でも珍しく30歳手前でお見合い結婚しました。同期でAの結婚祝いのパーティーを開き、私はその時にAの奥さんと初めて顔を合わせましたが、よく喋りよく笑う明るい女性でした。奥さんはAの3~4歳年下でしたが、すでに旦那を尻に敷いている様子がとても微笑ましく思えました。

 

その後A夫婦は2人の女の子にも恵まれ仕事も順調でしたが、40歳を前にして突然退職してしまいました。当時私は海外に駐在していてしばらくAとは連絡を取っていなかったので、彼の退職を知ったのはすでに彼が会社を離れた後のことでした。Aからの退職の挨拶メールもなく、同期の中にも彼の退職理由を知る者はいませんでした。

 

それから数年して私が帰国し、同期で慰労会を開いてもらいました。そのとき、Aの奥さんと親しかったB女史から、Aの退職理由を聞かされました。

 

Aと奥さんは九州の大都市圏の出身で、奥さんの兄が数年前に地元で家を新築する際に、Aに連帯保証を頼んでいたようです。そして数年後、義兄がローンを返済できなくなった時点で金融機関がAに対して残債の一括返済を求めてきました。Aの親は息子が連帯保証人になっていたとは夢にも思わず、義兄の借金を背負わされたことで義兄のみならず奥さんに対しても不信感を抱くようになりました。結局、Aは会社を辞め、退職金をつぎ込んで借金を返し、実家に戻り家業を継ぐことになったようです。Aの親からすると、自分の息子が奥さん兄妹の金づるにされたと思ったのでしょう。A夫婦に離婚を認めさせ、2人の子供の親権はAが取ったそうです。奥さんは都内で派遣社員として働いています。

 

Aは気が優しい男です。彼の話の端々から、彼がとても家族思いであることが伝わってきました。これは私の想像でしかありませんが、Aにとっては奥さん同様に義兄も大切な家族であり、その頼みを無碍に断ることができずに連帯保証を引き受けたのではないか。また、その結果、会社を辞め実家に戻ることになった負い目から、両親にも頭が上がらず離婚に応じてしまったのではないか。

 

義兄を思って行ったことで借金の肩代わりをさせられ、親の気持ちを思い離婚を承諾してしまったのだとすると、Aは自らの思いやりで自分を追い詰め、本当は一番大切にすべき“自分の家”を失ってしまったことになります。もうAと話す機会もなく彼の本心を聞かせてもらうこともできませんが、仲が良さそうだったA夫婦がこのような形で別れてしまったことは残念でなりません。

 

「借金の連帯保証人になってはいけない」とは言うまでもないことですが、身内からの頼みとなると断り切れないと考えている方も少なからずいるのではないでしょうか。

 

しかし、連帯保証人には催告や検索の抗弁権が無いため、債務者の返済能力の有無に拘わらず、債権者が要求すれば借金返済の義務を負うことになります。したがって、余程の覚悟が無い限り、肉親といえども連帯保証人にはなってはならないのです。

 

余談ですが、通常の住宅ローンでは保証会社などが返済の保証を行うため、連帯保証人を要求されることはありません。Aの義兄が住宅ローンを組む際に連帯保証人を求められた理由は定かではありませんが、金融機関が義兄の支払い能力を疑問視したことも考えられます。

 

大切にすべき存在とはだれか

かつて私は母方の伯母から金の無心をされたことがあります。従兄が家を建てる際の頭金の一部です。元はと言えば、私の母親が身内にいい顔をしたくて、自分の息子に口利きをすると安請け合いしたのが事の発端でした。母が見栄っ張りであることは今始まったことではないのですが、本人(私)の承諾無く大金を用意する約束をしてしまったことを強く諫めました。また、伯母からは、父親の葬儀の際の香典や私たち夫婦の結婚の際の祝儀のことについて恩着せがましいことを言われたので、その分のお金に“色を付けて”返しました。この一件で母の顔を潰し伯母一家とは疎遠になりましたが、これで、他の親戚からも変な期待を持たれずに済むと思うと、かえって清々した気分です。

 

自分の配偶者と子、自分の肉親、配偶者の肉親。みんな大切な家族・・・というのは綺麗事です。自分の身内全てにいい顔をしようとすると、結局は自分にとって本当に大切な存在を失うことになりかねません。

 

私にとっては、妻と娘たちが一番大切な存在であり、彼女たちと暮らす“自分の家”を守ることが、自分に与えられた役割だと考えています。