和尚さんの水飴

老後の前のハッピーアワー

アメリカ化する雇用関係

f:id:lambamirstan:20191026045002j:plain

愛社精神の風化

最近、「愛社精神」という言葉をあまりきかなくなりました。たまに耳にするときは、ブラック企業が労働搾取するときの謳い文句として登場するなど、いい印象を受けない言葉になってしまいました。

 

終身雇用制度が守られていた時代においては、会社は従業員の一生を面倒みる、その代わりに従業員は会社に忠誠を誓い、会社のために身を粉にして働く・・・というのが、労使双方にとって理想の雇用関係でした。

 

翻って最近の会社と従業員の関係を見ると、だいぶ様子が変わってきています。

わずか10年~20年の間に、年功序列や終身雇用が崩壊し始めました。団塊ジュニア世代が中高年に差し掛かれば、当然会社の負担する人件費が膨らむこととなるので、年功賃金や終身雇用制度を支えることができない会社が出てくるのも当然の流れです。

 

会社の制度が年功序列から実力主義に変わっていくことに伴い、就職する側の考え方も変化してきました。会社を「キャリアアップの機会提供の場」と捉える若者は、然るべきタイミングが来れば新たなチャンスを求めて転職していきます。そのようにして、今や転職を前提とした就職が当たり前の時代となりつつあります。すでに若い世代にとっては、「愛社精神」という言葉は死語になっていると思います。

 

軽くなる会社の看板

昭和から平成の時代、会社名と役職は、人から信用されるための有効な道具でした。ローンを組むにしても、クレジットカードを作るにしても、名の通っている企業で働いている方が審査を通りやすいことはお分かり頂けるでしょう。また、結婚披露宴の席次では、新郎新婦の上司や同僚は、名前の脇に会社名と役職が付記されるのが常でした。その人本来のパーソナリティーではなく、所属している組織とその中での役職で人を判断することが普通な時代でした。しかし、このような習慣も今後無くなっていくでしょう。

 

私がアメリカに駐在していたときのことです。彼の地では転職するのが当たり前、だれでも自分の能力を発揮でき、より良い条件の仕事があれば転職していきます。 学校を出て一つの会社で長く働く人の方が稀ではないでしょうか。したがって、自分が働いている会社への所属意識はとても希薄です。仕事以外で人と知り合ったときでも、自分がどのような仕事をしているかは話題にしますが、勤め先についてはこちらから聞き出すことはあまりしません。自分の所属先は、自身のパーソナリティーにとっては大して重要なものではないという意識が、アメリカ人にはあるのではないかと考えます。

 

日本でもこれからは、自分自身の取り組んでいる仕事に誇りを感じることはあっても、勤めている会社はただの「働く場」でしかない、という意識を持つ人々が増えてくるのではないでしょうか。そういう時代では、自己紹介で誇らしく勤め先を口にしていた習慣が滑稽なものに感じられることでしょう。

 

雇用関係はどう変わる?

アメリカで起こったことが、10年~20年遅れて日本でも起こるとよく言われます。労働環境については - 良い、悪いは別として - 日本はもっと遅れていますが、終身雇用が終わり、転職が当たり前になってくると、これから先どのようなことが起こるのか興味が湧いてきます。

 

試しにアメリカでは普通となっている一方で、日本ではまだ起こっていないこと挙げてみます。

 

インターンシップの重要視】

日本でも最近では、インターンシップ制度を導入して、大学生に職場体験をさせている会社が増えていますが、アメリカでは、インターンシップで就業経験を積んでいるか否かは就職の成否を左右するポイントです。アメリカでは年齢に関係なく即戦力となる人材が望まれます。仕事未経験の新卒者を会社が育成するというのは、アメリカでは聞いたことがありませんでした。したがって、学校を出たばかりの若者であっても、自分を即戦力として売り込まなければなりません。そのためにも、学生時代にインターンシップ等で経験を積んでおくことが大切なのです。

 

【新卒一括採用の廃止】

学生は日本のような就職活動はしません。新卒一括採用というしきたりが無いため、企業は必要なポストに相応しい人材を随時募集しています。学生は、在学中からインターンなどで就業経験を積み、卒業後の勤め先を探します。もし、卒業しても就職先が見つからなければ、パートタイムでの仕事をする傍ら、資格取得の勉強やスキルアップに励みつつ、より良い条件の働き口を探し続けます。そのようにして企業を渡り歩きながら役職と給料を上げていきます。働き手は年中、より良い条件の職場を探し求めています。

 

【職種による報酬額の差別化】

労働市場の需給関係や業務の特殊性などにより、職種による報酬額にはかなりの開きがあります。例えば同じ会社に勤めている同年代で、かつ、エンジニアという同系列の職種だとしても、土木関係なのか、石油関係なのかなどによって給料がかなり変わってきます。したがって、お金をたくさん稼ぎたいのなら、労働市場で価値の高い職種を目指す必要があります。

 

【解雇条件の緩和】

アメリカではパフォーマンスが悪ければすぐに解雇されます。私がかつて出向していた企業では、毎年、管理目標の達成度が低い社員を解雇し、その補充を募集していました。解雇された社員は、元上司の推薦状を携えて次の働き先を探します。このようにして労働力は市場を回り続けるので、需給に応じた人員配置を容易に行うことができます。だからと言って、解雇条件の緩和を日本に持ち込むことに関しては、私は反対です。アメリカのような“雇用の十分な流動性”が確認できなければ、安易な解雇条件緩和は被雇用者の立場を悪くするだけです。とは言いながらも、働き方改革を受け入れた企業側からすれば、組織・人員体制の活性化を進めるために、解雇条件の緩和を政府に働きかける可能性は排除できません。

 

ここに挙げたこと全てが現実のものになるとは限りませんが、このようなことが起こり得ると思って、準備を進めること自体は損にはなりません。将来、日本の雇用関係が“アメリカ化”しても生き残るためには、会社内での評価を上げるために働くよりも、仕事を通じて自分の商品価値を高めることに注力すべきだと思います。