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天下りの話

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マイプロジェクトを作りたい

天下り」と言うと、官庁や融資元の金融機関などから民間企業への押し付け的な移籍のことを指します。あまりいいイメージが湧きませんよね。私も会社人生約30年で「天下り」の役員と仕事をしてきましたが、あまりいい思い出がありません。

 

それでも、銀行などから下って来て“部長付き”などの役職(?)に就く人は会社にとってプラスになることが少なくありません。自分の立場を弁えているので、仕事の邪魔にはなりせんし、ある銀行からの天下りさんは、ファイナンスに関する深い知見もあり、プロジェクトの資金調達などではいい相談役でもありました。銀行への伝手もあって、ありがたい存在でもありました。しかし、ご本人からすると、どんなにプロジェクトに貢献できてもこれ以上の昇格の芽があるわけでもないので、いつもどこか寂し気な様子だったのを覚えています。

 

一方、問題なのは官庁からの天下り組です。お役所でどんなにいい仕事をしてきても、民間企業での実績はゼロです。実績がない人間がある日突然役員、あるいはそれに準ずるポジションに就くことほど不幸なことはありません。

 

何故か、その手の天下りは社内での自分のプレゼンスに異様に執着し、先走ってプロジェクト立ち上げを役員会でぶち上げ、それを下々の者に押し付けるという無茶なことをします。会社の業績や事業の収益性など眼中になく、ただ一日も早く“マイプロジェクト”を持ちたいという一心に突き動かされているようでした。

 

これまで見てきた天下りは、えてして社長への取り入りに長け、マイプロジェクトを立ち上げるところまではうまく駒を進めることができました。しかし、出来上がったプロジェクトは、不思議と悉く失敗に終わっています。

 

新規のプロジェクトは、鉛筆の舐め方次第でバラ色にも灰色にもなります。10年、20年と続くプロジェクトは様々な外部環境に晒されあらゆるリスクに直面することを想定して、最悪の場合の出口戦略まで考えた上で最終投資判断をすべきなのです。ところが、プロジェクトの立ち上げだけが目的化してしまうと、見たくないものは目をつぶって前に進んでしまうことになります。

 

失敗はみんなの責任

我が社にも最終投資判断をするまでにいくつもの関門がありますが、すでに社長まで根回しが済んでいる案件については、審査部門も異を唱えることを躊躇してしまいます。そうして出来上がったプロジェクトは数年もすると会社のお荷物になります。

 

さて、その責任は誰がとるのか。誰も取りません。

 

数年前、社長交代を機に、失敗したプロジェクトを総括して今後の新規プロジェクトの審査や投資意思決定に役立てようという企画が持ち上がりました。非常にいいことだと思いました。事業部としても、これまでいくつもの失敗したプロジェクトの責任を負わされてきたことから、これらのプロジェクトがどのような経緯で生まれ投資判断がなされたのか、何が失敗の原因だったのかを究明することで、健全なボトムアップ型のプロジェクト立ち上げができることを期待していました。しかしながら、失敗プロジェクトの原因究明は骨抜きになりました。要は、いくつもの審査を経て最終的には経営陣の総意でゴーサインを出したプロジェクトであるから、一個人に失敗の責任を負わせるべきではない、という結論です。

 

いやいや・・・これまで、失敗を重ねてきても誰も責任を取ろうとしなかったからこそ、その失敗の原因を究明しようとしたのではなかったのか。部長以下は、仕事のミスで飛ばされることもあったにも拘わらず、役員が犯した失敗には目をつぶるのか。

 

結局、失敗プロジェクトの総括はお粗末なものとなりました。若手・中堅社員からも少なからず落胆の声が上がっていましたが、役員フロアにはそのような声は届かなかったようです。

 

羹に懲りて・・・

件の天下り役員は、夢よ再びとばかりに部下に対して発破をかけますが、次なるマイプロジェクトはなかなか出てきません。有望なプロジェクトの卵があるにも拘わらず、今度は失敗を恐れるあまり、意思決定ができなくなってしまいました。

 

どんなプロジェクトも、利益を上げようとすればそれ相応のリスクを伴います。リスクを最小限に留める努力は必要ですが、ゼロにすることはできません。最終的には会社として、そのリスクを許容できるかどうかが判断基準になります。リスクを恐れ過ぎるとチャンスを逃すことになります。天下り役員は、大やけどを負った記憶が消し去れず、今度はマッチの火を見ただけで逃げ出そうとしているようです。

 

ビジネスにはリスクがつきもので、失敗することも当然あります。そんな当たり前のことを知らずに天下ってきた者に企業の役員など務まるはずがありません。